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「拒否権はないと言ったよな? ……梁瀬家には懇意にしている病院があるぞ」
「……どういう意味ですか……?」
唐突に切り替わった話題に不安が募り、背中に冷たい汗が一筋流れ落ちた。
彼は無言でハンドルを切り、車を人気のない路肩に寄せ、停車した。
「母親の薬代は大きな負担じゃないのか?」
真正面から見据えられ、目を見張る。
抱え込んだバッグを再び強く握りしめた。
私の母は体が生来弱く、とくに貧血が酷い。
けれど薬へのアレルギーが多く、一般的なものはほとんど服用できない。
保険対象ではない薬や注射を接種する場合が多く、我が家の医療費負担はとても重い。
食事も決まった食材しか受けつけないため、さらに負担が大きくなる。
父が出張時などで家事がままならない場合は、ハウスクリーニングを利用することもある。
しかも年齢を重ねるにつれ、母が体調不良を起こす頻度は増えてきている。
社会人になり、少しでも家計の足しになればと送金しているが、ひとり暮らしもしているので余裕はない。
貯金も潤沢にあるわけではない。
しかも長引く不況で、父が勤務する老舗文具メーカーの業績は右肩下がりになっている。
父の給料も年々下がっているという状況だ。
「お前が俺と結婚するなら母親の薬代金はもちろん、治療や日々の生活のサポートに関してもすべて責任をもつ」
ありえない提案に、呼吸が止まりそうになった。
両親、なによりも母の件はずっと気がかりだった。
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