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『私の看病ばかりしなくていいわよ』
気丈な性格の母は独り暮らしを強く勧めてくれたが、心配は尽きなかった。
父は今年から出張の多い部署に異動になると聞き、実家に戻ろうかと本気で考えていたくらいだ。
「結婚後も仕事を続けても構わないし、行動を制限するつもりはない」
「どうして、そこまで……? 本来は私の意見や希望など通らないお話なんですよね?」
拒否権はないと聞いたばかりだ。
なのに交換条件じみたものを提示するなんておかしい。
「へえ……勘がいいな。丸め込まれないだけの度胸がある」
彼の唇が緩い弧を描く。
「俺はしきたりで、結婚相手を決めたくない。時代錯誤も甚だしいうえ、不幸が目に見えている。だが頭の固い親戚連中は、しきたりを変えれば災いが起こるなどと信じている」
馬鹿馬鹿しい、と強い口調で憤る。
「この歪んだ慣習は俺の代で終わらせたい。そのためにはまず、周囲を黙らせる力と地位が必要だ」
「梁瀬社長は後継者ですし、問題ないのでは?」
「今の俺は子会社の社長でしかない。本社の幹部になれるのは妻帯者のみという暗黙の慣習がある。ふたつ目に本家直系の俺は次代を育てなければならない」
真剣な眼差しで、真っ直ぐ私を見据える。
「俺の子を産んでくれ」
今日一番の驚きに、声が出ない。
プロポーズも甘い雰囲気もなく、子どもを望まれるなんてありえない。
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