2.運命≠必然

15/15
前へ
/174ページ
次へ
「……も、もういいでしょう? 返してください。高価なものだと思うので早く届けたいんです」 「ああ、そうだな。これは梁瀬本家後継者の婚約者に贈られる婚約指輪だ」 ……今、なんて? 「お前がこの指輪を持っているとはな。見つからないはずだ。運命の巡り合わせか?」 そう言って、骨ばった指で私の顎をすくい上げる。 吐息の触れそうな距離で見つめられ、鼓動が速いリズムを刻みだす。 「彩萌、俺の妻になれ」 耳元に響く低音に、背筋に痺れがはしる。 「この指輪も行方不明になっていた。今、お前が警察に届け出たら盗んだのかと疑われるぞ?」 甘い声で物騒な言葉を紡ぐ。 「なぜこの付近にいたのかわからないが、お前がぶつかった相手は里帆だろう。だがそれを証明できるか?」 見惚れそうな笑顔で、私をどんどん追い詰める。 あの女性が、元婚約者? 「結婚を了承するなら、俺のすべてでお前を守ってやる」 傲慢な物言いに心が揺れる。 無茶苦茶な話なのに、どうしてか胸が震えていた。 私を、守る? こんなにも自信たっぷりに、守るなんて言ってくれる人はいなかった。 母を、父を、支えなきゃとずっと思ってきた。 「俺の妻になれ」 もう一度発せられた命令に、気がつけばうなずいていた。 「契約成立だ」 ニッと口角を上げ、私の顎から指を外す。 間髪入れずにギュッと抱き込まれ、瞬きを繰り返す。 愛さないと宣言されているのに、力強い腕の感触と香水の香りに高鳴る鼓動を抑えられない。 ……決断が早すぎただろうか。
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4702人が本棚に入れています
本棚に追加