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「……も、もういいでしょう? 返してください。高価なものだと思うので早く届けたいんです」
「ああ、そうだな。これは梁瀬本家後継者の婚約者に贈られる婚約指輪だ」
……今、なんて?
「お前がこの指輪を持っているとはな。見つからないはずだ。運命の巡り合わせか?」
そう言って、骨ばった指で私の顎をすくい上げる。
吐息の触れそうな距離で見つめられ、鼓動が速いリズムを刻みだす。
「彩萌、俺の妻になれ」
耳元に響く低音に、背筋に痺れがはしる。
「この指輪も行方不明になっていた。今、お前が警察に届け出たら盗んだのかと疑われるぞ?」
甘い声で物騒な言葉を紡ぐ。
「なぜこの付近にいたのかわからないが、お前がぶつかった相手は里帆だろう。だがそれを証明できるか?」
見惚れそうな笑顔で、私をどんどん追い詰める。
あの女性が、元婚約者?
「結婚を了承するなら、俺のすべてでお前を守ってやる」
傲慢な物言いに心が揺れる。
無茶苦茶な話なのに、どうしてか胸が震えていた。
私を、守る?
こんなにも自信たっぷりに、守るなんて言ってくれる人はいなかった。
母を、父を、支えなきゃとずっと思ってきた。
「俺の妻になれ」
もう一度発せられた命令に、気がつけばうなずいていた。
「契約成立だ」
ニッと口角を上げ、私の顎から指を外す。
間髪入れずにギュッと抱き込まれ、瞬きを繰り返す。
愛さないと宣言されているのに、力強い腕の感触と香水の香りに高鳴る鼓動を抑えられない。
……決断が早すぎただろうか。
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