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「――お帰りなさいませ」
制服を着た人々が、一斉に彼に声をかける。
足を踏み入れた本家は、まるでホテルのようなしつらいだった。
「父は?」
「皆様、応接室でお待ちです」
初老の男性の返答にうなずいた彼は、私の手を引く。
「彼女が俺の婚約者だ」
簡単すぎる紹介に慌てて頭を下げると、無言で頭を下げ返された。
名乗りもしないまま、長い板張りの廊下を歩いていく。
飾られている調度品類はきっと高価なものなのだろう。
前に進むたびに、硬質で重苦しい雰囲気を感じる。
ひときわ大きな扉の前で彼が立ち止まり、軽くノックする。
「ただいま戻りました」
「入りなさい」
室内から聞こえた男性の声に、瑛さんが扉を大きく開く。
足を踏み入れた応接室は、二十畳近い広さがある。
中心部に豪華で大きなテーブルが置かれ、十脚ほどの椅子には老若男女が腰を下ろしていた。
上座に座る男性がゆっくりと立ち上がると、倣うように全員が腰を上げた。
「お帰り。ずいぶん早かったな」
「ええ、期待通りの返事がいただけたので。彩萌、父だ」
これまたあっさりした紹介に、目を見開いた。
緊張で体が強張ってしまう。
周囲の射るような視線を無視した瑛さんが、私を父親の目の前に引っ張っていく。
「は、初めまして、新保彩萌と申します」
「突然お呼び立てしてしまい、申し訳ない。瑛の父です」
口元は弧を描いているが、目元はまったく笑っていない。
皺が刻まれ、日に焼けた面差しに涼やかな二重の目は瑛さんとよく似ている。
梁瀬グループトップの、圧倒的な存在感に足が竦みそうになる。
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