3.「俺の花嫁はお前だけだ」

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「――お帰りなさいませ」 制服を着た人々が、一斉に彼に声をかける。 足を踏み入れた本家は、まるでホテルのようなしつらいだった。 「父は?」 「皆様、応接室でお待ちです」 初老の男性の返答にうなずいた彼は、私の手を引く。 「彼女が俺の婚約者だ」 簡単すぎる紹介に慌てて頭を下げると、無言で頭を下げ返された。 名乗りもしないまま、長い板張りの廊下を歩いていく。 飾られている調度品類はきっと高価なものなのだろう。 前に進むたびに、硬質で重苦しい雰囲気を感じる。 ひときわ大きな扉の前で彼が立ち止まり、軽くノックする。 「ただいま戻りました」 「入りなさい」 室内から聞こえた男性の声に、瑛さんが扉を大きく開く。 足を踏み入れた応接室は、二十畳近い広さがある。 中心部に豪華で大きなテーブルが置かれ、十脚ほどの椅子には老若男女が腰を下ろしていた。 上座に座る男性がゆっくりと立ち上がると、倣うように全員が腰を上げた。 「お帰り。ずいぶん早かったな」 「ええ、期待通りの返事がいただけたので。彩萌、父だ」 これまたあっさりした紹介に、目を見開いた。 緊張で体が強張ってしまう。 周囲の射るような視線を無視した瑛さんが、私を父親の目の前に引っ張っていく。 「は、初めまして、新保彩萌と申します」 「突然お呼び立てしてしまい、申し訳ない。瑛の父です」 口元は弧を描いているが、目元はまったく笑っていない。 皺が刻まれ、日に焼けた面差しに涼やかな二重の目は瑛さんとよく似ている。 梁瀬グループトップの、圧倒的な存在感に足が竦みそうになる。
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