3.「俺の花嫁はお前だけだ」

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焦って瑛さんとご両親を交互に見るが、三人ともなにも反応を示さない。 自ら名乗るべきなのだろうか?  それとも紹介されるのを待つべきなの? 正しい振る舞いがわからず、背中を冷たい汗が流れ落ちる。 すると、瑛さんが私の手をゆっくりとほどき、父親の真横にひとりで移動した。 「彼女は私の新しい婚約者の新保彩萌です。朝霞家との婚約の正式な破棄をこの場をお借りしてご報告いたします。彩萌とはできるだけ早く入籍するつもりです」 決して大きくはないが、低く力強い声が部屋中に響き渡る。 彼の言葉に小さく一礼した男女の姿に、朝霞家の方だろうかと考えた。 「お待ちください! 新しい婚約者だなんて、聞いていませんわ!」 先ほどの和装の女性が怒りも露わに、鋭い視線を私に向ける。 「おや、瑛の婚約者が三カ月も不在なのは認められないと、皆様おっしゃっていたのでは?」 瑛さんの父親が穏やかに問い返す。 「ええ、もちろんです! ですから然るべき相手をと進言いたしました」 「そうですわ! 新保なんて名字、聞いた記憶がありません。分家でもないのでは?」 「しかも、その格好……教養も常識もなく、格下の家なぞ梁瀬家に釣り合いません!」 「新しい婚約者には、時芝(ときしば)様のご令嬢が選ばれるべきですわ!」 大勢の人々が私を見据え、指まで指してくる。 鋭い視線とキツイ言葉たちに圧倒され、ひゅっと息を呑んだ。 胸の前で無意識に握りこんだ指がカタカタと震えだす。 こんなにも悪意に満ちた視線や声を、一度に受けた経験はない。 見ず知らずの人々に、どうしてここまでなじられないといけないの? 引き受けたとはいえ、元々望んだ婚姻じゃないのに。
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