3.「俺の花嫁はお前だけだ」

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圧迫されるような息苦しさと心細さにパニックになりかけ、視線を彷徨わせると、上座に立つ瑛さんと目が合った。 彼は睨むように私を見据えていた。 『二度目になるが、車から降りたら気は抜くな。誰になにを言われても聞き流せ』 『本家は俺の実家だが分家をはじめ、普段から多くの人間が出入りしている。お前との婚姻に難色を示す家はあるが……俺は彩萌を選んだ』 少し前に告げられた台詞が、脳裏によみがえる。 不安と焦りでこみ上げる涙を、必死に押し戻す。 ここで、泣いてはいけない。 震える足に無理やり力を入れ、唇をギュッと噛みしめた。 ……自分で選択した道よ。 逃げるわけにいかないわ。 私は決して気が強いほうではないし、負けん気もない。 ただ、一度自分が決めた出来事を投げ出すのは大嫌いだ。 芙美にはしょっちゅう変なところで頑固で意地っ張り、と苦言を呈されているけれど。 「まあ、私たちを睨んでいるの? これだから教養のない人は!」 金切り声が一層激しくなる。 覚悟を決めたとはいえ、終わりの見えない攻撃に心が折れそうになる。 思わず下を向きかけたとき、グッと肩と腰を引き寄せられた。 「――ご意見は、それですべてですか?」 私を背後から抱きしめた瑛さんが、落ち着いた声で話す。 「なにを勘違いされているかわかりませんが、彩萌は私が望み、選んだ、唯一の花嫁です。彼女以外と結婚するつもりはない」 最後の言葉は丁寧さが抜け落ちていた。 腰にまわった腕にギュッと力がこめられる。 「……瑛、さん?」 「よく、頑張った」 振り仰ぐと彼が口角を上げる。 初めて目にする柔らかな表情に気が緩み、力が抜けていく。 目の前が真っ白に染まった気がした。 「……おいっ! 彩萌?」 何度も名前を呼ばれた気がしたが、私の意識は完全に途切れていた。
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