4703人が本棚に入れています
本棚に追加
圧迫されるような息苦しさと心細さにパニックになりかけ、視線を彷徨わせると、上座に立つ瑛さんと目が合った。
彼は睨むように私を見据えていた。
『二度目になるが、車から降りたら気は抜くな。誰になにを言われても聞き流せ』
『本家は俺の実家だが分家をはじめ、普段から多くの人間が出入りしている。お前との婚姻に難色を示す家はあるが……俺は彩萌を選んだ』
少し前に告げられた台詞が、脳裏によみがえる。
不安と焦りでこみ上げる涙を、必死に押し戻す。
ここで、泣いてはいけない。
震える足に無理やり力を入れ、唇をギュッと噛みしめた。
……自分で選択した道よ。
逃げるわけにいかないわ。
私は決して気が強いほうではないし、負けん気もない。
ただ、一度自分が決めた出来事を投げ出すのは大嫌いだ。
芙美にはしょっちゅう変なところで頑固で意地っ張り、と苦言を呈されているけれど。
「まあ、私たちを睨んでいるの? これだから教養のない人は!」
金切り声が一層激しくなる。
覚悟を決めたとはいえ、終わりの見えない攻撃に心が折れそうになる。
思わず下を向きかけたとき、グッと肩と腰を引き寄せられた。
「――ご意見は、それですべてですか?」
私を背後から抱きしめた瑛さんが、落ち着いた声で話す。
「なにを勘違いされているかわかりませんが、彩萌は私が望み、選んだ、唯一の花嫁です。彼女以外と結婚するつもりはない」
最後の言葉は丁寧さが抜け落ちていた。
腰にまわった腕にギュッと力がこめられる。
「……瑛、さん?」
「よく、頑張った」
振り仰ぐと彼が口角を上げる。
初めて目にする柔らかな表情に気が緩み、力が抜けていく。
目の前が真っ白に染まった気がした。
「……おいっ! 彩萌?」
何度も名前を呼ばれた気がしたが、私の意識は完全に途切れていた。
最初のコメントを投稿しよう!