3.「俺の花嫁はお前だけだ」

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一瞬の触れ合いの後、瑛さんはゆっくりと綺麗な顔を傾ける。 二回目のキスは上唇を甘噛みされ、まるで形を確認されているようだった。 「……んっ……」 角度を変えて繰り返される長い口づけに、鼓動がどんどん高鳴っていく。 思わずギュッと彼の胸元に置いた手を握りしめると、瑛さんが唇を解放した。 自身の唇の端を親指で拭う妖艶な姿に、胸が痛いほど疼く。 「……歯止めがきかなくなりそうだ」 「なんで、急にキス……!」 動揺を誤魔化すように強い口調で問うと、平然と返される。 「お前は俺の妻になるんだ。触れ合うのは当たり前だろう?」 甘さの欠片もない傲慢な口調に、先ほどまで感じていたどこか優しい空気が霧散する。 心の中が氷塊を埋め込まれたように一気に凍りついていく。 ……そうだ、私たちは契約結婚をする。 後継者を産むのは、条件。 そのために抱かれなければならない。 恋愛感情のような甘いものは存在しない。 わかっているのに、なぜこんなに胸がヒリヒリするの? 瑛さんのシャツを握ったままの指から、力が抜けていく。 彼の姿を見たくなくてうつむく。 「……どうした? 起きているのがつらいか?」 私の唐突な態度の変化に、体調が悪くなったのかと勘違いした瑛さんが尋ねてくる。 「週明けも調子が戻らないようなら無理するな。とりあえず、自分の部屋から持ってきたいものはあるか? それとも全部運ぶか?」 「……ええと、なんの話ですか?」 理解に苦しむ発言に、思わず顔を上げる。
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