3.「俺の花嫁はお前だけだ」

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「これからも、そうやって言えよ」 ぽんと頭を撫でる手は、存外優しい。 「ただし引っ越しは譲らない。日程が決まったら伝える。お前はしばらく寝ていろ」 「あの、でも、ここ……瑛、さんのベッドですよね?」 「今後は俺とお前の、な。病人が変な気を遣わなくていい、ゆっくり食べろ。終わったら呼べ」 そう言って、腰を上げる。 ベッドを占領している申し訳なさは拭えない。 部屋を出ていく後ろ姿を見つめた後、ベッドサイドに視線を移すと、テーブルの上に私のバッグがあった。 きっと彼が置いてくれたのだろう。 バッグを手に取り、スマートフォンを取り出す。 画面を見ると、現在は土曜日の午後九時半過ぎで、時間の経過に改めて驚く。 ずっと看病してくれた瑛さんには、感謝している。 キツイ口調や鋭い眼差しにひるみそうになるが、本質はとても優しい人なのかもしれない。 契約結婚相手に、ここまで親切にしてくれるくらいなのだから。 ふと思い立ち、彼の前の婚約者を検索する。 詮索するようで、後ろめたさはあったが、思いとどまれなかった。 数分後、調べたことを後悔した。 現在三十歳の朝霞さんは、住宅の内装やエクステリアの製造大手、朝霞建材株式会社のひとり娘だった。 瑛さんの祖父の妹が朝霞家に嫁いでおり、本家にとても近い存在のようだ。 梁瀬グループ傘下の中でも大きな力をもっているらしい。 しかもふたりは幼馴染、瑛さんの態度からも親密さがうかがえる。 立場の違いが大きすぎて、もはやため息しか出ない。 親戚の皆様が紛糾するのも納得だ。 契約結婚の私が気にする必要はない。 わかっているのに、なぜか心が不安定に揺れる。 その理由を知りたくなくて、スマートフォンを暗転しギュッと目を閉じた。
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