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「礼は、お前をくれたらいい」
「お、起きて、たんですか……!?」
逃げようにも、手首と頬を捉えられていて動けない。
「人の気配には敏感だからな。俺を知りたいんだろ?」
寝起きだからか、どこか気だるげな雰囲気を漂わせる瑛さんの色香はすさまじい。
「……熱は下がったみたいだな。体はつらくないか?」
「は、はい……ありがとうございます。もうすっかり元気です。このお礼は必ず……」
「お前をくれたらいい、とさっき言わなかったか?」
え?と思った瞬間、私の体が彼の体の上に引き倒された。
「急に、なに……!」
するんですか、と言いかけた声は彼の唇に呑みこまれた。
性急で荒々しい口づけが徐々に穏やかになり、幾度となく繰り返される。
長い口づけに頭の中がぼうっとし始めたとき、私は仰向けになっていて、顔の真横には彼の長い腕があった。
「瑛……さん?」
「お前がほしい」
綺麗な二重の目には情欲が滲む。
真っ直ぐな眼差しに、呼吸が苦しくなった。
「俺もお前を知りたい。……体が回復したら抱くと言ったよな?」
向けられた言葉に、跡継ぎという大切な条件を思い出す。
瞬時に心が冷え、血の気が引いていく。
まさか、私はショックを受けているの?
どうして?
この結婚を了承した時点で、私に彼を拒む権利はない。
会って一日の人と婚約して、体を重ねるなんてありえない。
だけどこれが、今の私の現実だ。
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