4630人が本棚に入れています
本棚に追加
/174ページ
その後、初夜を迎えるため用意された豪華なスイートルームへと移動した。
恐る恐る部屋に足を踏み入れる。
入り口のドアが閉まった途端、彼にバスルームに押し込まれ入浴するように言われた。
ドレスの背中部分にある、幾つものホックや結び目は大きな鏡を確認しながらでも、なかなかほどけない。
本来は新郎に優しく外してもらうようだが、そんな助力は頼めない。
部屋に向かう途中ですら、会話もなく、目も合わなかったのだから。
ひとりになると急に疲れを感じて、磨かれた冷たい床にぺたりと座り込んだ。
幾重にも折り重なるドレスの裾のおかげか足も冷えず、痛くない。
豪奢なドレスを脱ぐまで、どれだけ時間がかかるだろう。
強く引っ張られ結い上げられた髪のせいか、頭がズキズキと痛む。
まだ半分も外れていないホックを、恨めしげに鏡越しに見ると、ドアが軽くノックされた。
ビクッと反射的に立ち上がれば、サラサラとドレスが衣擦れの音を立てる。
「……水音が聞こえないが、まだシャワーを浴びていないのか?」
ドア越しに訝しむように尋ねられ、慌てて声を出す。
「す、すみません。あの、私は後で入りますから……よかったら先にどうぞ」
「は? 今までなにをしていたんだ?」
不機嫌そうな声に返答に窮する。
……ドレスが脱げない、なんて言えない。
最初のコメントを投稿しよう!