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ある部隊の隊長が部屋で、大きく嘆息した。
これから直談判をしてきた部下との面談があるのだ。
事と次第によっては隊から抜けるとまで言われている。自分も入れてたった4名の組織だ。やめられてはかなわない。
不満をしっかり聞いて、できる範囲で要望を叶える。そして今後も一緒にやっていって欲しいと言うつもりだ。
扉の前で足音がした。
「入りたまえ」
『失礼します』
引き戸が開き、男が部屋に入ってきた。座布団に座る隊長と向かい合い、床に腰を下ろす。
男は眉間に皺を寄せて、鋭い眼差しをしている。
『今日は言わせてもらいますよ!』
隊長は腕組をしながら、答える。
「かまわん、聞こうじゃないか。一体何の話だ。他の2人の隊員が気に入らないとでもいうのか? だったら間に入るのもやぶさかではない」
『違います。あいつらは気のいい奴らだ。仲良くしています。問題は隊長、あなたです』
「なんだって……何が不満だっていうんだ」
『分かりませんか。まず、我が家には子供が多い。あれだけの現物支給ではやっていけないんですよ』
ぐっ、と隊長は唾を飲み込む。
「わ、分かった。量を増やす事を検討しよう」
しかし男は引き下がらない。
『どうして現物支給で、給与の形ではないんですか』
隊長を的をいた質問に驚愕した。
『それだけじゃない。俺は初め、あなたの理想に心酔していた。強力な鬼のような部隊に打ち勝とうと、一人で立ち上がる。誰もができることじゃない』
「そうだ。だから君は私に忠誠を誓ってくれたじゃないか。君のような実直で戦力になる者はいないんだよ。一緒に闘っていこう」
隊長は男を説得にかかる。
『いや。最近分かったんです。あなたの狙いは戦地に平和をもたらす事ではない。隊長、あなたは我々の隊が勝利をもぎ取ったあと、儲かった金を独り占めしようとしている!』
男は前のめりになり、今にも飛びかからんとする勢いだ。隊長は表面上は冷静を装おう。しかし、内心は冷や汗をかいていた。
━━なぜこの男は勘づいたんだ。残りの2人は疑いもしていないのに。
そして、この交渉が決裂したら、彼はでて行ってしまう。
私の元をさるとしたら、自由奔放で大空を飛び回るような彼女か、俊敏で木でも登れるような彼の方だと思っていた。
隊長は覚悟を決めた。
「よし、じゃあ敵を打ち破って大金が手に入ったら、君達にも分ける事を約束しよう!」
『やはり我々に分ける気はなかったんですね。俺は鼻が効くんだ。あなたは本当に食えない人だな』
「食われたら困るよ。1人に1割ずつ渡すことを約束する」
『少なすぎるっ。どこまで強欲なんです。そうだな・・1人3割で手を打ちましょう』
「それだと、君達3人で9割になって、私は1割だけだ。さすがにそれでは祖父母に面目が立たん。勘弁してくれ」
隊長は泣きそうになるが、男は譲らない。長い話し合いが続いた。
結局、部下3名が2割ずつ。隊長は4割の取り分となった。
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桃太郎は、急に尻尾をふりだした犬の頭をなでる。現金な奴めと思うが、自分も悪いなと反省した。
さすがに吉備団子をやるから、鬼と闘えというのは無茶か。
「ああ、この交渉の結果をキジと猿にも伝えなきゃだな」
と肩を落とした。
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