むらさき髪の人魚

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そうして美姫は、今は昼日中のプールで泳ぐ。そんな時間、そんな場所でなら、妙なイメージなど生まれようもないと判断したからだ。 月夜には何だか神秘的なイメージがある。十六夜でも更待月でも三十日月でも。そんな時分にそれを演出するような場所で、変わった色の髪と瞳を持った美姫が泳いでいたら。 奇跡とか不思議が起こるように誤解されてもおかしくない。 自分が悪い。そんなシチュエーションを作った美姫自身が。千明のせいじゃない。 だからその要素を断ち切る。 「でもお姉ちゃんといると、あたし本当にいっぱい不思議体験したんだよ」 それが千明の言い分。 おたまじゃくしが降ってきたとか。その後二度とたどり着けない幻の店で食事したとか。信号が全部青になっちゃったとか、落としものが奇跡的に見つかったとか。 「知らん」 実際おたまじゃくしが降ったニュースは各地にあったし、幻の店に辿り着けないのはただの方向音痴。信号なんて100回試せば全部青でつながることもあるだろうし、落としものが見つかるか見つからないかは確率論。 全部そうやって理屈で返した。そうして千明が「わーい、やっぱお姉ちゃんの毒舌スッキリ~」とか喜ぶ。 わけわかんないわ。 凹ませてやろうとしてるのに、あっさり受け止めてすり寄ってくる。 そういえばこれまでも、……シロツメクサもサングラスのときも男絡みも、翌日にはケロッとしていた。「妹」という生き物の特権。 「次は服持ってくるね。水着も。お姉ちゃん、持ち服少なすぎ。何よ、靴もこれだけ? ちょっとあんまりな女子力――」 「ああもういい。あんたのその気質。将来は見合いゴリ押しするお節介オバチャンね」 「ええーっ?」 素直な妹は素直に落ち込んだ。よし、やっと一発入った。 それでも、美姫は千明が何だかを持ってきてくれる日を楽しみにしている自分に気づいていた。 「今度スーくんも連れておいでよ」 そして、凹んだ顔を輝かせることを、つい言ってしまっていた。 (終)
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