僕はしあわせだった①

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僕はしあわせだった①

 『祝福の実』。  これがあれば男同士であっても子を宿すことが出来る奇跡の果実。見た目も味もぶどうによく似ている。  なぜ僕がその実の味まで知っていると言えば、食べたことがあるからだ。まぁ食べていなくてもこの世界じゃ子供でも知っているくらい有名な話だけど。  教会へ行けばその実を買う事が出来る。そんなに安いわけじゃないから平民はぽんぽん買う事は出来ない。だけど、平民の給金でも2か月分ほど貯められれば買う事は可能だ。  そして先ほども言ったが、僕はその祝福の実を食べたことがある。何故かと言われれば結婚して夫がいるから。  結婚してもうかれこれ5年になるだろうか。その間に3度、その実を食べたが残念なことに子は宿らなかった。  祝福の実を食すことで子が宿るとは言われていても必ずではない。運も必要で、僕達夫夫はその運にそっぽを向かれているだけなのだ。  祝福の実を食べても子が出来ないことはままある。そのため僕も大して疑問にも思わず、また次回頑張ってみようと思うにとどめている。 「ただいま」 「クルトおかえり。もう飯出来るからな」 「うん、ありがとう。いつもごめんね。僕の帰りが遅くって…」 「何言ってんだよ、気にすんなって。もうすぐ出張って言ってたしそれで忙しいんだろ? さ、腹減ったし食おうぜ」  僕の夫であるフリッツは本当に優しくて頼りがいがある。家がパン屋で毎日パンを捏ねているからか腕も太くて逞しい。料理も凄く上手で、仕事で帰りが遅い僕の代わりによく作って食べさせてくれる。
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