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夫と親友に裏切られて④
僕とフリッツが寝ているベッドの上で! フリッツに愛されていたあのベッドの上で! フリッツと親友だと思っていたデニスが! あんなっ…あんな……!
僕は無我夢中で町を駆けだした。出張で持っていた鞄を抱えて、涙を流しながらただひたすらに我武者羅にただただ走り抜けていった。
そしてふいに足が止まる。なんで逃げたんだろう。僕は何も悪いことはしていないのに。あり得ないことをしていたのはあの2人なのに。
でももう帰れない。帰りたくない。あの家にはもう、僕の居場所はないんだから。
そのまま止まらない涙を拭いながらふらふらと歩き出した。ふっと上を見上げてみれば、今いるこの場所は飲み屋が集まる歓楽街だった。
『新酒入荷!』と書かれた看板が目に入り、よく知りもしない店へそのまま足を向ける。
「いらっしゃい……ませ。あの、おひとり様、ですか…?」
「はい…。あの……席は空いていますか?」
「はい……あの、じゃあ、こちらへどうぞ…?」
僕の顔は涙でぐしゃぐしゃだ。いきなりこんないかにも訳ありそうな男が入ってきて、店員もさぞかし驚いたことだろう。だが追い出されることなく席に案内してくれて有難かった。
案内されたのはカウンター席だった。膝の上に鞄を乗せて椅子に座るとすぐ、この店で一番強い酒を注文した。店員は少し不安な顔になりながらも「わかりました」と言って下がっていった。
するとすぐにグラスに注がれた酒とナッツが置かれる。僕は店員に礼を言うと、直ぐにその酒を一気に煽った。
「お、お客様っ!?」
「……おかわりを」
「……、わかりました」
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