どうしてここまで⑧

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どうしてここまで⑧

 そして後日、離縁が成立したら僕のところへ連絡が来るようになっている。  ただ一つ心配なのは、フリッツがサインをしないことだった。だけど離縁理由に不倫と恫喝、名誉棄損と記入したし、それをヘルマン様が証人としてサインを入れてくれた。  貴族であるヘルマン様が、しかも宰相補佐官という重役を担っている人がサインを入れたことで、それは強く証明されたことになる。だからフリッツは逃げることが出来ない。  僕の離縁は滞りなく行われるだろう。  そして一安心するとその後は本屋をいくつか巡ることになった。僕が気になった本を選べと言われて1冊だけ手にしたものの、僕の部屋にあった本や今手にした本を元に、僕の好きそうな本を10冊ほど手にしたヘルマン様はそれを纏めて購入した。  いや確かにどれもこれも僕が気になった本だけど、あんな短い時間でよく僕の好みがわかったなと思う。  それからおしゃれなカフェでゆっくりと紅茶を飲みながら、なんでもない会話を楽しむ。一緒に注文した軽食とケーキはびっくりするくらい美味しかった。流石貴族御用達の店。  その後は劇場へと向かい、初めてオーケストラの演奏を聴いた。色んな楽器が一斉に奏でる演奏は、まるで音の波で僕は圧倒された。ただただ凄いとしか言えなかった。 「オーケストラは初めてだと言っていましたね。どうでしたか?」 「はい。もうなんというか、とにかく凄かったです。見えるはずがないのに、何故か色んな色や景色が見えてすごく鮮やかでした」 「ふふ。色や景色が見えましたか。感性が豊かなのでしょうね。喜んでくれて良かったです」  それから家へと帰ると、食堂にはまた素晴らしい食事が用意されていた。一瞬困ったものの、もう今更断れないと思ってまた有難くいただいた。  ヘルマン様はまたにこにこと嬉しそうにされていたが、僕はこれ以上何かをされることは心苦しくて食事の後話をしようと心に決めた。
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