僕はしあわせだった⑥

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僕はしあわせだった⑥

 今日は例の領地へと出発する日。玄関先でフリッツとハグしてキスをする。着替えなどを詰め込んだ鞄を持ち、意気揚々と家を出た。  しばらく会えないのは正直ちょっと寂しい。頑張って仕事して早く帰ってこよう。この時の僕はそんなことを考えていた。それがあんなことになるなんて…。 「おはようございます、ヘルマン様」 「おはようございます、クルト。今日からよろしくお願いしますね」  集合時間より早めに馬車乗り場へと着いたのに、いつものようにヘルマン様は既にそこにいらっしゃった。僕が側まで来ると、さっと持っていた荷物を手に取り荷物置き場へと収めてくれた。 「すみません! ヘルマン様にそんなことさせてしまって…!」 「少し高い場所ですしね。小柄なあなたより、私の方が無理なく出来る。それだけですよ」  そう言ってなんてことないと笑ってくれた。  ヘルマン様は本当に優しくしてくださる。申し訳なく思う程に。  いつの日だったか急に大雨が降りだしてしまって、帰るに帰れなくなっていた日。傘も持っていなかったため『仕方ない、ずぶ濡れになって帰るか』と王宮を出ようとした時だ。後ろから名前を呼ばれ振り向くと僕を呼んだのはヘルマン様だった。    仕事で何かやり忘れた事でもあったのかな、と思ったら、『雨が酷いので送りますよ』と馬車で家まで送ってくれたのだ。ヘルマン様はまだ仕事が残っているにも関わらず、僕の為に馬車を出してくれた。ヘルマン様はそのまま王宮へとんぼ返り。ヘルマン様の時間を無駄にさせてしまったけど、お陰で僕は濡れずに済んだ。 仕事でも僕の仕事量が多いと、ご自分だって大変なのにさりげなく手伝ってくれるし、甘いものが好きな僕の為に高級菓子店のケーキを何度も差し入れして下さったりもした。  いつも申し訳なく思うけど、『頑張ってくれているご褒美ですよ』とか『あなたのお陰で仕事が捗ります』と言って、僕がそこまで気を遣わず受け取れるようにしてくれる。  だから少しでもヘルマン様を助けられるように仕事をこなす毎日だ。
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