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「娘が私を殺したの?」
「だから本人がそう言っていたでしょう?何処かで、あなたが自分の父親を殺したことを知ったのでしょうね。いくら娘の為とはいえ、彼女から父親を奪ったのは確か。恨まれるのも仕方がないのではないかと」
「どうして!?私はあの子の為にあの人を殺してあげたのにっ!!ここまで死なずに成長出来たのは、私のおかげでしょう!?」
「はぁ。随分と恩着せがましい言い方をするのですね。夫を殺したのも結局は自分の為だったくせに。もう少し分を弁えたらどうですか?」
死人であることは承知しています。しかし分を弁えろとは何という物言いでしょう。この方こそ珍妙な洋装もどきの格好をして、恥ずかしくないのかしら。
あぁ嫌だ嫌だ。
「私はあなたの希望に沿ってあげただけです。あなたは娘さんが幸せな姿を見たかった、だから幻の世界線を見させてあげました。なのに、身の程も知らないあなたがもっと奇跡を強請ったばっかりに、私としたことがつい手が滑って現実の方を見させてしまったんです。とっとと成仏しないのが悪いんですよ」
「だって、あの子が私を滝壺へ突き落としたって知ってしまったんですもの!!恩知らずのあの子こそ、身の程を知って貰わねばならないのではっ!?」
「だから娘を呪い殺そうとでも?つくづく愚か極まりない。そもそも、明治が幕を下ろして百年以上経過しているんです。現代に彼女の影も形もありません。霊体と出会っていないなら、彼女に未練はないのでしょう。何せ憎い母親は子どもの頃に殺してあるんですから」
淡々と言う店主に憎悪の気持ちをぶつけてしまいたい。いっそのこと、店で殺してしまった方が良かったかもしれません。でも店員と思わしき子どもまで殺す気はありません。あの子には私と似た気を感じるのです。
「もしかして今、想太のことを考えました?あー、あの子は駄目ですよ。万が一傷でも付けようものなら、私が店主に怒られてしまうので。言ったことを滞りなく遂行して貰っている故に、こっちも温情を掛けてあげようかなって。なのであなたは消えてくださいね」
店主は指先までピンと張り詰め、横に一度だけ空を切りました。私の首をほんの少しだけ掠める距離感だったと思います。
刃物のような鋭さを帯びた指。喉笛が掻き切られると、赤い血ではなく灰が噴き出しました。
「ちょっとは清算されたね」
覚えているのはそれだけです。
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