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恐怖と屈辱が心に迫ってくるが、気力で押し殺し、魚沼は恐る恐る近くの建物のそばに寄った。売却されたらしき、かつての住居。買い手がつかずにそのまま不動産屋にも見捨てられ、廃墟と化したのだろう。埃とカビの臭いがきつく立ち込める、崩れ落ちそうなボロ家だった。
建てつけの意味を為さぬほど壊れた扉が剥がれかけており、中の様子が見えた。
微かに聞こえる物音と、人ならざる者の濃厚な気配。
ここに、いる。
魚沼は意を決して、廃屋の中に入った。
床が自身の体重で鈍くきしむ音がする。嫌な響きだ。
ふわりと、香水のような甘い匂いが鼻をかすめた。鼻腔をくすぐる芳しい香り。嗅ぐだけで頭の芯がぼうっと酩酊するような――。
「人間さん」
くすりと笑う声が聞こえた。
はっとして目を見開く。いけない、意識をしっかり保て。己を叱咤激励して、魚沼は再度レーザーガンを構えて威嚇の姿勢を示した。
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