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「好きです。付き合ってください」
体の芯がヒヤッとしている。冷や汗ってやつだろうか。とにもかくにも伝えるべきことは伝えた。
それからゆっくりと息を吐いて、彼女の目を確認したが、対面に座っていた彼女の視線は冷ややかなものだった。
「ダメ」
そのひとことに心が折れる。
「ええ……ダメ?」
「長い! 全体的に! 結論に行くまでがダラダラしすぎ! もっとメリハリつけて!」
奈津美からマシンガンのようにダメ出しが飛んでくる。しっかり数えていないけど、20テイクは優に超えていると思う。奈津美は厳しい視線を俺に向ける。
「あのさ、分かってると思うけど、うちの牡丹は、はっきり言わないと伝わらないタイプの人間だからね?」
おっしゃる通り。俺がこの度告白しようとしているお相手:牡丹は、はっきり気持ちを伝えないと、かなりマイナスに捻じ曲げて解釈する傾向があり、あらぬ誤解を生んでしまうこともしばしば。いまの関係性は俗に言う友達以上恋人未満……そんな状況を打破しようと、彼女の親友:奈津美は考えたらしい。休日にいきなり呼び出しを食らって、現在に至る。
「分かってはいるけどさ……どこをどう直せばいいんだよ?」
「知らないー。そんなの自分で考えなよ」
「告白の練習するぞって言ったのはそっちじゃん……ちょっとくらいアドバイスちょうだいよ。同じ女性目線で」
「当事者が考えなくてどうするのよ? ほら待っててあげるから、準備できたら声掛けて」
奈津美はそばにあったメニューにそそくさと手を伸ばす。さっき特大のオムライスを食べたばかりなのにまだ何か食べるらしい。
というか……
「なんでこの街なの?」
ずっと気になっていたことに触れてみる。俺の声に反応して、奈津美の顔半分が、大きく開いたメニューの上から覗いた。俺は軽く咳払いした。
「喫茶店だったらわざわざ遠出しなくても近場でよかったんじゃないかって」
実際、俺の家の近くにも手頃な店はいくつかある。だが、指定された喫茶店は電車で片道1時間近くかかる街の喫茶店だった。これが何を示すのか?
「彰くんや、きみは何も分かってないな」
奈津美は呆れながら首を横に振った。
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