『呪い』か何か

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「この街はね、有名なデートスポットなのよ! 街ブラするのもよし、海岸で手繋ぎデートするのもよし! 今回はただの告白練習じゃなくて下見も兼ねているの! それにね……」  次の瞬間、顔いっぱいの笑顔。奈津美がこの表情を浮かべるとき、大抵とんでもない方向に話は進んでいく。俺は相槌も打たずに固まっていたが、奈津美は持っていたメニューを置いて身を乗り出してきた。 「この街にはいくつかの都市伝説があって、前々から足を伸ばしてみたかったのよ! ちなみにね、都市伝説っていうのは……」  始まった。オカルト研究会の本領発揮といったところだろうか。こうなるとブレーキが効かないことを俺は知っているので、お冷で喉を潤しながら静かに小休止した。  奈津美の話はしばらく終わりそうにない。 「中でも有名なのが遊園地に関するものでね? そこにあるレストランには裏メニューがいくつかあって、なんとこの喫茶店……」  そこまで言ったとき、奈津美は自分のパーカーのポケットをまさぐった。震えるスマホの画面を見ると、彼女の目は爛々と輝いた。 「ごめん、ちょっと外すわ!」  そう言い捨てると、奈津美は足早に店の外へ出た。窓際の席だったので、窓ガラス越しに彼女が電話しているのが見える。誰から何の電話なのかは分からないが、その姿はとても楽しそうで、加えて何かよからぬことを企んでいるようにも見えてハラハラした。 「はぁ……」  脱力した視線が左上にずれる。  一瞬ギョッとした。  視線の先には、色とりどりの風船の束。何事かと目を凝らすと、道の向こうで長身のピエロが子ども達に風船を配っている。 「そういえば、遊園地がどうとか言ってたな……」  都市伝説がどうとかこうとか。  奈津美なんて言ってたっけ?  そんなことを考えながら、ぼんやりとピエロを眺めていると、ほどなくしてピエロと目が合った。 「あっ」  "目が合ってしまった"  正直気まずく思ったが、問題のピエロは微笑みながらお辞儀をしてきた。釣られて小さく会釈をすると、ピエロは風船を持っていない方の手でいきなり宙を掴んだ。彼はとても嬉しそうにその握り拳を眺めている。するとまたこちらを見て……  "ヒョイ"  その握ったものをこちらに向かって投げてきた。流れるように視線を移すと、信じがたいのだが、俺の目の前にガラスの小瓶が出現していた。小瓶には桃色の金平糖。俺はすぐに窓の外を見たが、もうそこにピエロの姿はなかった。
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