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「メロンソーダ、ひとつ……」
そう伝えると、店員は特に深くは追求せずに、注文をオウム返しした後、静かに立ち去っていった。
改めて、俺の向かいに座ったさくらを見る。彼女はテーブルに頬杖をつきながら、今度はポスターではなくて、窓の外の景色を眺めている。
細長い白い腕に凛とした横顔。当たり前かもしれないが、あのときと何も変わらない。
彼女……芳村さくらは俺の幼馴染であり、高一のときにクラスからいじめを受け、後に自ら命を絶ってしまった故人である。つまり、俺はいま幽霊と会っている……ということになるらしい。
「公衆電話方式らしいぞ」
店員が去った後、さくらが独り言のように呟いた。想像もしていなかった台詞に「え?」と漏らすことしかできない。
さくらは淡々と話し始めた。
「公衆電話って、話し続けるためには十円玉入れ続けるだろ? 同じだ。舐め終わる前に次を舐める。じゃないと見えなくなる」
さくらの視線は、金平糖の入った小瓶に向いた。俺も続けて小瓶を見つめる。どういう仕組みかは分からないが、どうもこの金平糖を食べている間は死んだ彼女が見えるらしい。舌で確かめれば、先ほどより確実に小さくなっている金平糖の欠片が頬の裏に張り付いている。俺は急いで小瓶から金平糖をひとつ摘んで、口の中に放り込んだ。
「で? どうなの最近は?」
新しい砂糖がふんわりと口の中で溶け始めたとき、さくらがまた口を開く。さっきまで窓の外に向いていた瞳も、今度はまっすぐ俺をとらえている。
「どうって……まぁ、元気だよ……」
俺は「元気」という言葉とは程遠い口調で答えた。
「学校は?」
すかさず次の質問が飛んでくる。俺は思わず頭を掻いた。
「学校? ……学校もまぁ……普通だよ……」
「おい」
今度は言い方が鋭かった。確認すると、こちらを見る目つきまで鋭くなっている。
「なんだその受け答えは? 小学生の作文か? 私がもしお前の彼女だったら引っ叩いてるぞ?」
さくらはそう言い捨てると、また窓の外へ視線を送った。
生きているみたいだった。
昨日も変わらず会っていたような気がする。神社で他愛もない話をして、ギターを弾きながら、たまにクッキーを摘んでみたりして。そんな過去が、現在進行形のような錯覚に陥る。
それと同時に、彼女の死を告げられたあの日が脳裏に蘇る。どうすれば、窓の外を眺めている彼女の横顔に……彼女がいる未来に辿り着くのだろうか。
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