『呪い』か何か

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「漆黒の特製デミグラスソースを使った、シェフ自慢のハンバーグ定食」  メニューを2、3ページめくった後、咄嗟に口走る。 「出汁の効いたふわふわ肉厚の玉子サンド、ゴロゴロ野菜の入ったチーズグラタン、バター香る昔ながらのホットケーキ、ほろ苦いカラメルが売りのカスタードプリン」  そこまで唱えてからさくらを見たが、相変わらず澄ました表情でこちらを見つめている。 「俺が提案してたら、何か変わってたか?」  『あのとき』のことを話題に出したくて例えてみたものの、例え方が我ながら下手くそすぎだ。それでも何かを感じ取ったのか、さくらは少しの間黙り込んでいた。  言わなきゃよかったかも。  口の中の金平糖がトゲトゲしている。 「メロンソーダのままだったかな、たぶん」  しばらくして彼女は呟く。聞いておいてあれだが、俺は「そっか」としか言えなかった。  クラシックなBGM、暗めの間接照明……やっぱりすごく居心地が悪い。金平糖じゃなくて、いまだけは俺が溶けてなくなればいいのに。 「でも、いまだったら変えてたかも」  視線がまた行き場をなくしそうになったとき、さくらの声がスッと入ってくる。驚いて顔を上げると、どこか遠くを見るような目のさくらがいた。 「悩んで選択して、その選択したものを吟味して、ああだったな、こうだったなって言い合えるのは生きている特権なんだよね……私にはもう遅いけど」  さくらは徐に席を立ち、俺に背を向けた。結局注文したメロンソーダは手付かずだし……それに金平糖。小瓶にはまだたくさんの桃色の金平糖が入っている。さくらは振り返ることなく、スタスタと出入り口の方へ歩いていく。  まだ見えるのに。  せっかく見えているのに。  俺は金平糖の入った小瓶をギュッと握りしめた。 「待てよ、まだたくさん……」 「とっとけ」  さくらの足は止まった。だが、その足がこちらに向かうことはもうない気がした。彼女はゆっくりと振り返って微笑んだ。 「辛いときや苦しいときのために、とっておけ。ピチピチのJKがまた会いに行ってやるよ」  そう言った瞬間、彼女の笑顔がより大きくなった。 「あ、そうそう。そういえばついに告白するんだよな……小学生の作文になってたら引っ叩いて教えてやるよ」 「え?」
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