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「はぁ……はぁっ」
店から、あの二人から、少しでも遠く離れたくて。私は住宅街の中を、あてもなくひたすら走る。
あの人が、こーちゃんの婚約者なんだ。
初めて会ったけど、絵里さん綺麗な人だったな。こーちゃんとも、美男美女ですごくお似合いで。
絵里さんと一緒にいるこーちゃんは、今まで見たことないくらい幸せそうな顔をしていて。
こーちゃんが、食べ物を『はんぶんこ』する相手は……もう私じゃない。絵里さんなのだと。
こーちゃんの笑顔も、優しさも。これからは全部、絵里さんのものになるんだ。
今までは結婚式の招待状で二人の名前を見ていただけだから、どこかぼんやりとしてイマイチ現実味がなかったけれど。
さっき二人が一緒にいるところを、この目でハッキリと見てしまったら……。
「……うう」
こんなところで泣きたくないのに、涙が次から次へと溢れてくる。
せっかく用意していたバレンタインのチョコレートも、もう渡せないね。
だってこーちゃんはもうすぐ、あの人の旦那さんになるのだから。
そう、頭では分かっているのに。
「こーちゃん。こーちゃ……っ」
私がこーちゃんを好きだという気持ちは、そう簡単には消えてくれそうもない。
藍色とオレンジ色が混ざり合う空の下。
住宅街の隅っこで、私は一人泣いた。
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