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「ああ。環奈、もしかして覚えてない? 十年前、俺らがこの公園の桜の木の下にタイムカプセルを埋めたこと」 「タイムカプセル……あっ」 そうだ。今まで忘れていたけれど、こーちゃんに言われて思い出した。 今から十年前。私が小学校二年生で、こーちゃんが中学一年生だったとき。 当時人気だったテレビドラマで高校生の幼なじみの男女が、昔一緒に埋めたタイムカプセルを二人で掘り起こすという話をやっていて。 それを見た私は自分もやりたいと、こーちゃんに言ったんだ。 こーちゃんは嫌な顔一つせず、『俺らもやろうか』と優しく笑って私に付き合ってくれて。 確か、クッキーの缶箱に十年後のこーちゃんへと向けて書いた手紙と一緒に当時の自分の宝物か何かを入れて、この桜の木の下に埋めた。 『環奈。十年後の今日。必ず二人でここに来て、一緒にタイムカプセルを掘り起こそう』 『うん。約束ね!』 そうしてこーちゃんと私は、公園の桜の木の下で指切りげんまんをした。 でも、まさかこーちゃんが十年前の約束を今日までちゃんと覚えてくれていたなんて。 それなのに、私は……。 「……はい。環奈」 こーちゃんが、私の分のシャベルを渡してくれる。 「ごめんね、こーちゃん。元はと言えば、タイムカプセルは私が言い出したことなのに。今日まで忘れていたなんて」 「まあ、あのときの環奈はまだ八歳だったし。仕方ないよ」 こーちゃんの大きな右手が、私の左肩にポンとのせられる。 「何より環奈は、今日こうしてちゃんとここへ来てくれたんだから。それでいいじゃないか」 こーちゃん……。 「さあ。日が暮れる前に早く掘り起こそう」 「うん」 私とこーちゃんは桜の木の下にしゃがみこみ、シャベルを使って掘り始める。
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