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「こっ、こーちゃん!」 やって来たのは、幼なじみの松浪幸太だった。 「おっ、環奈じゃん。今日も店手伝ってんの?」 「うっ、うん」 私は、中学生の時から放課後や学校が休みの週末にこの店を手伝っている。 この店の正式なアルバイトスタッフとして賃金をもらうようになったのは、高校生になってからだが。 私は現在、店では主に接客を任されている。 お客様のオーダーを取ったり、掃除をしたり。 「そっか。いつも偉いな、環奈は」 まるで小さな子どもを褒めるみたいな言い草で、こーちゃんは私の頭をぽんぽんと撫でた。 ネクタイをゆるめながら歩を進め、こーちゃんはいつもの席へと座る。 カウンターの左端の席。そこが、こーちゃんの指定席だ。 「おばさん、ブレンドとシフォンケーキをひとつ」 「はい。幸太くん、いつもありがとうね」 お水とおしぼりを持ってきた母が、こーちゃんにふわっと微笑む。 「いえ。ここに来ると、なんか落ち着くんですよね。コーヒーは美味いし、仕事も捗るし」 そう言ってこーちゃんはノートパソコンを開き、カチカチと文字を打ち始める。 あ。リラックスした表情から、一瞬で仕事の顔つきに変わった。 カウンター越しに見える彼の真剣な顔に、思わず見とれてしまう。 「こーちゃん。それ、テストの問題作り?」 「ああ。明後日、生徒に抜き打ちでテストするから」 「抜き打ちでテストか。大変だねぇ。“ 松浪先生 ” も」 「ちょっ。環奈に先生とか言われると、身体がむず痒くなるからやめてくれ」 現在二十三歳。社会人一年目のこーちゃんの職業は、高校の数学教師だ。
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