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───夜、口笛を吹くと『蛇』が出る。
真夜中、誰もが寝静まった頃に窓を開ける。
体の芯まで冷えるような冷たい空気が外から流れ込んでくる。
冷たい畳の上で正座をして息を吐き出した。
『蛇を呼んで』
誰にもバレないように小さく口笛を吹くことが五十鈴(いすず)の日課だった。
夜に口笛を吹いてはいけない。
「蛇が出る」「泥棒がくる」「人買いがくる」
今はそんな迷信を知る者はいないだろう。
(嘘吐き……)
そう思いながらも口笛を吹いてしまうのは毎晩、誰かが迎えに来てくれることを待っているからかもしれない。
この世界にはアヤカシの血を引いていると言われている家々が存在する。
特有の能力を引き継いでいて、現代においてもその能力を発現することがあり、その力は脈々と引き継がれている。
五十鈴が住む天狗木(てんぐぎ)家もそのひとつだった。
風の力を持ち、様々な神通力を持っていたという天狗の血を継いでいる。
未来予知ができる者や浮遊できたりテレポートできる者。
あらゆる音を聞き取ったり、相手を閉じ込める結界能力を受け継ぐこともあるそうだ。
そんな天狗木家の中でたったひとり、神通力の能力を注がなかった者がいる。
それが『五十鈴』だった。
香色の髪と金色の瞳は黒髪に緑の瞳を持つ天狗木の中では異端どころか、全くの別物に見えるだろう。
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