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朱音は任せてとでも言うように胸に手を当てて頷いている。
五十鈴はゴクリと喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
すると風也から深いため息が聞こえた。
そして次の台詞で空気が凍りつく。
「それから、五十鈴に手を出すことは許さん」
「……っ!?」
「任せるとは言ったが、勝手はするな」
その言葉に顔を上げて驚き目を見開いた。
「…………。お言葉ですが旦那様、わたくしは何もしておりませんわ」
「私が何も知らないと思っているのか?」
「……!」
「風美香もだ。分かっているな」
「も、もちろんですわ。お父様」
朱音の握られた手のひらが怒りからかブルブルと震えているのが見えた。
五十鈴は再び下を向いた。じんわりと手のひらに汗が滲む。
火が風で煽られて燃え上がるように朱音の中で何かが膨らみ大きくなっているのを感じていた。
風也達がいなくなった後、何が起こるのか安易に想像出来たからだ。
「出発は明日だ。いいな?」
「はい」
風雅は静かに成り行きを見守っていたが、風也の問いかけに頷いた。
「五十鈴、話がある。来なさい」
「…………。はい」
「お前達はもう下がれ」
「……っ、かしこまりました」
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