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「奥様!やめて下さいませ」
「旦那様に……!」
「はっ、報告してごらんなさいよ。今すぐあなたの顔面と唇を焼き潰して喋られないようにしてあげるわ」
「ひっ……」
朱音の手のひらには真っ赤な炎が浮かんでいる。
喉を引き攣らせた使用人達はそれ以上、何も言えなくなってしまった。
結局は能力があるものに逆らうことが出来ないのが現状だった。
使用人達は震えながらあっさりと身を引いた。
やはり実害が出るとなれば別だろう。
横から「どうしましょう」「旦那様になんて言えば」と怯えた小さな声が耳に届く。
実際、隠されてはいるが朱音の逆鱗に触れた侍女が顔に火傷を負ったという話を聞いた事があった。
そしてもう一つ厄介なのは……。
「わたし達の悪口を言ったら直ぐに聞こえるんだからね」
「……っ」
「お父様にバレる訳ないじゃない。アンタ達が黙ってれば……本当に馬鹿ね」
風美香の神通力である遠くの音まで聞こえる能力だった。
使用人達はこの能力を恐れている。
二人の愚痴を言おうものなら風美香にすぐバレてしまうし、そこから朱音に伝わってしまう。
立ち尽くす五十鈴の香色の髪を掴んだ朱音が何事もなかったかのように歩き出す。
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