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「……痛っ」
「今日から一週間、別邸で働きなさい」
「奥様!おやめ下さいませ」
「旦那様がこれを知ったら……」
「うるさいっ!」
朱音が怒りに任せて火を放ったのを見て五十鈴は目を見開いた。
その火が使用人の一人のシャツの袖に燃え移る。
「いやっ、火が……!」
「キャアアァ、水、水を……」
「熱いっ、だれか助けて」
騒ぎ出す使用人達を横目に、クスクスと風美香が口元に手を当てて喉を鳴らす。
五十鈴も水を持ちに行こうとするが、髪を掴まれるような形で引き止められてしまう。
「フフッ、お母様の火が簡単に消えるわけないじゃない」
「……!」
「わたしの邪魔をしたら、あの女のようになるから覚えておきなさい」
朱音の言葉に周囲の使用人達からゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。
先程の使用人がどうなったのかは分からないが、あのままだと火傷を負ってしまうだろう。
「旦那様に告げ口をしたら……ただで済むと思わないことね」
あまりの恐怖に周囲が静まり返っていた。
朱音に髪を無理矢理引かれて、引き摺られるようにして歩き出す。
こちらが躓いてもお構いなしである。
頭を押さえながら五十鈴は顔を歪めて母屋へと続く廊下を歩いていた。
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