83人が本棚に入れています
本棚に追加
まるで今までの我慢をぶつけるように朱音は五十鈴に辛く当たるつもりなのだろう。
しかし風也という盾が取り払われた今、五十鈴に抵抗するすべはない。
わざわざ証拠が残るような傷をつけるようなことはしないだろうが、酷い目に遭うに決まっている。
自分の無力さをこれほど呪ったことがあっただろうか。
(やっぱり、こうなってしまった……)
母も朱音から五十鈴を守ろうとしてくれたのだろうか。
こうして抵抗も出来ずに苦しんだのだろうか。
だから母もあの部屋から絶対に五十鈴を出さなかったのだろう。
そのことを思い出すだけで涙が出そうになった。
髪を掴んでいた手が離れると、別邸の廊下で五十鈴は崩れ落ちるように倒れた。
前髪を掴み直して頭皮を強く引かれる感覚に顔を歪めた。
そして、朱音の茶色の瞳と視線が交わった。
「ああ……その気持ち悪い金色の目。呪われた目だわ。あの女にそっくりで吐き気がする」
母を馬鹿にするその言葉が許せなかった五十鈴は朱音を睨み返す。
そして珍しく反抗するように口を開いた。
「…………は、なして」
最初のコメントを投稿しよう!