【蛇と鈴】

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分かっていたことだったが、まさか強引に母屋に引き摺られてまで、こんな扱いを受けるとは思っていなかった五十鈴は悔しさから唇を噛んだ。 (……こんなところ、大っ嫌い) 土に汚れた顔を拭いながら五十鈴は心の中で呟いた。 一番嫌いなのは誰にも必要とされず、何もできない自分自身だった。 (私は、何のためにこんなところにいるの……?) 声を上げることなく、ポタポタと頬に伝う涙を拭うことも忘れて雑草に手を伸ばして引き抜いていく。 結局、こうして従うことしかできない自分が嫌になる。 朝から何時間そうしていただろうか。 使用人が縁側に水や軽食を置いては一言声を掛けてから足早ゆ去っていく。 結局、肌寒くなり朱音に「もういいわ」と声を掛けられるまで五十鈴は草取りを続けていた。 次の日も、また次の日も五十鈴は外に放り出されては母屋の周りの雑草を片付けていた。 どうやら母屋の中には入られたくないようで、こうして外にいる分には乱暴に扱われることはない。 土で汚れていては触れたくはないのか近づいてはこない。 縁側で見て笑われているだけならば、まだマシだろう。 (あと五日……)
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