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だが離れに閉じこもって風也の世話をしているよりは、こうして外の空気に触れている方が気が紛れる気がしていた。
今日は母屋の裏の草や掃除を命令されていた。
時折、別邸の使用人が様子を見に来ては去って行く。
恐らく、朱音に五十鈴が手を動かし続けているか見てこいとでも言われたのだろう。
そんな時、草と草の間に白い影が見えた。
五十鈴は気のせいかとも思ったが、その場所にもう一度視線を送った。
やはり草はカサカサと音を立てつつ揺れている。
よく目を凝らすとそこにはツルツルとした長い体と赤い目をした綺麗な白い蛇の姿があった。
「蛇……?」
五十鈴がそう言うと、蛇はチロリと細い舌を出した。
何故、ここに蛇が居るのかが気になったが、朱音に見つかっては間違いなく殺されてしまうだろう。
蛇はすごい速さで草陰へと身を隠してしまったが、ひょっこりと顔を出して五十鈴の様子を伺っているように思えた。
初めて見る蛇に興味津々だった。
「こんな所にいたら見つかってしまうよ。早くお逃げ」
話しかけても答える訳もないと分かってはいたが、可愛らしい姿に癒されていた。
蛇を観察しながら和んでいた五十鈴だったが、ふと記憶の中にある母の言葉を思い出す。
『五十鈴……蛇を呼んで』
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