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五十鈴の気持ちは少しだけ上向きになった。
辺りが暗くなっていることに気付き、朱音が待つ玄関へと向かう。
「奥様、終わりました」
「ふん……さっさと行きなさい」
「……。はい」
「うわぁ……土だらけ。汚ったない!中に入ってこないでよね!」
後ろから顔を出した風美香が片手を振って嫌がる素振りを見せる。
今日も綺麗な服を着た二人を前にして、五十鈴は惨めな気持ちになった。
土が固まって擦り切れた指を握って鈍い痛みに耐えていた。
すると後ろから赤褐色の髪をしたスラリと背の高い吊り目の青年が現れた。
「風美香……?そんなところで何やってんだよ」
「灯火(とうか)……!」
「ああ……なんだ。コイツか。何やってんだ、こんなところで」
「ふふっ、母屋の雑草を全部取ってもらってるの」
「へぇ、役立たずにはお似合いな仕事だな」
「そうね。灯火の言う通り……天狗木家の役立たずにはお似合いの格好だわ」
狐坂 灯火(こさか とうか)は風美香と婚約関係にある。
妖狐の血を引いており、主に火を操る能力を使う。
天狗木家に嫁いできた朱音の実家である狐月家も妖狐の血を引いている。
天狗木家は一つしかないが、妖狐の血を引く家々はたくさんあるそうだ。
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