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灯火は手のひらに火の玉を浮かべて投げながら遊んでいる。
軽く投げた火の玉は五十鈴の着物の裾を掠める。
「ハズレ~」と楽しげに言う灯火の行動に恐怖を感じて、五十鈴は軽く頭を下げてから離れに向かおうとした時だった。
「誰が行っていいと許可を出したの?」
咎めるような朱音の声に足を止めた。
「…………奥様」
「挨拶もろくに出来ないなんて。はぁ……旦那様はこの子を甘やかし過ぎなのよ」
「……………」
五十鈴が見ている世界と朱音や風美香が見ている世界は大きく違う。
(私だってこんなところ出ていけるならば、出ていきたい……)
風也は五十鈴を甘やかしているわけでも可愛がっていることもない。
二人の関係は殺伐としていて、朱音達が想像している関係とはかけ離れている。
しかしそのことを知らない朱音と風美香は、五十鈴が本邸にいる理由を勘違いし続けている。
そして鈴華や五十鈴が使っている力のことも何も知らないのだ。
風也は「この力は誰にも使ってはならない」と言う。
しかしその度に思うのだ。
名前も知らないこの力を誰が必要とするのか、と。
「明日は今日よりも早く起きて仕事をしなさい」
「……かしこまりました」
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