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『待って……!』
そんな言葉は空気に溶けて消えてしまった。
母が死んでからは五十鈴が母の代わりに風也の側について世話をするようになった。
本邸で風雅や風美香のように学校にも外に出ることなくずっと……。
代わりに家庭教師がついて勉強していたものの、楽しそうに学校に通う風美香を羨んでいた。
そんな五十鈴も、もう十六歳になった。
今日も風也の元に朝食を持って行き、離れの掃除をしてから空になった食器を運んでいた。
前から歩いて来る義母の朱音と学園の制服を着た風美香が前から歩いて来るのを見て、嫌な予感がしたが、そのまま頭を下げて、廊下の端に体を寄せて通り過ぎるのを待っていた時だった。
「……邪魔よ」
「…………っ⁉︎」
朱音の手がお盆に思いきり当たる。
───ガッシャン
ぐらりと食器が揺れるのを抑えようとするが、大きな音を立てて床に落ちて割れていく。
明らかに朱音が五十鈴に打つかった。
周囲の者はそれを見ていたにも関わらず、誰も声を上げることはない。
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