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「もうっ!鈍臭いわね。それにお父様の食器を割るなんて最低よッ」
「本当ね……風美香さん、怪我はないかしら?」
「ありませんわ。お母様……朝から最悪な気分。どう責任取るつもり!?」
「…………申し訳、ございません」
五十鈴は深く頭を下げた。
こうなれば二人の気が済むまで謝り続けなければならないと知っていたからだ。
そのまま淡々と返事を返していると、パチンと朱音の平手打ちが飛ぶ。
叩かれた頬がじんじんと痛む。理不尽な扱いに五十鈴は唇を噛んだ。
「この事は旦那様に報告致しますわ。これだから恥知らずの女の子供は」
「……っ」
「はぁ……ここは空気が悪いわ。早く行きましょう。お母様」
「えぇ、そうね。さっさとそこを片付けておきなさい。誰も手伝ってはなりませんよ」
ダメ押しの如くそう言った朱音に周囲の者達は頷いた。
(……そんなことを言わなくても誰も助けてはくれないわ)
この家には五十鈴に声を掛ける者などいない。
稀に何も知らずに善意から五十鈴を見兼ねて助けてくれる者もいたが、すぐに朱音に伝わり屋敷を辞めていった。
天狗木家の中で五十鈴の立場は誰よりも低いように思えた。
母がいるときは隠されるようにして部屋の奥にいた。
母が亡くなってから、こんなにも過酷な環境に身を置いていたのだと知ることになり深く後悔していた。
この状況を知っていたら少しは母の力になれただろうに。
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