85人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
その言葉に五十鈴は頷くしかなかった。
千蔭の顔が険しく、声も低くなったからだ。
『自由』という言葉は少し違和感と戸惑いを感じていた。
「で、出れないというわけではないぞ……!」
「ぁ……はい」
「要は、まだ時期ではないということだ」
千蔭の言葉に五十鈴は頷いた。
そうして電話を手に取った千蔭は「終わった」と一言だけ告げると受話器を乱暴に置いたあと、額に手を当てて考え込んでしまった。
真っ黒なスーツに身を包み、背が高く髪の短い女性とエマが直ぐにやってくる。
(あの時、車を運転していた人だわ……)
「お呼びでしょうか?」
「五十鈴を連れて行ってくれ」
「かしこまりました」
「千鶴、話がある」
「はい」
千鶴と呼ばれた女性は、五十鈴に向けて丁寧に腰を折る。
二人の間には信頼関係があるような気がしていた。
五十鈴が出て行った後に重苦しい空気が流れる。
最初のコメントを投稿しよう!