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「あと色々と怖い要素を付け加えたらいいな」
並べた机の上に置いた人形を見ながら誠次は腕を組む。
「例えば?」
「うーん……服に血をつけるとか?」
誠次が悩みながら綾に答える。
「そうだ、顔がかわいいからこういうのどう?」
綾は将が持ってきた布用のクレヨンから赤色を選び人形の口に大きく線を引いた。
「ほら、口裂け女」
「元がぬいぐるみだからあんまり違和感ないな」
「じゃあこういうのは?」
愛華は人形の顔の口を赤い糸でジグザグに縫った。最初に比べるとずいぶん裁縫もこなれたようだ。
「お、いいな。設定は?」
「え? 別にないよ」
誠次に訊かれたが、適当にやっただけなので愛華は返答に困る。
「いや、ちゃんと設定は作った方がいいだろ。例えば毒親の母親にうるさいって怒られて縫われたってどう?」
将はどこか楽しそうに話した。
「うわあ、きっつー」
「それでさ、幸せな家庭の女の子に憧れてそのマネをしようとするんだけど、服が無いから盗んだのがばれて母親に手を刺されたり」
「怖い怖いって」
綾と将が盛り上がる。将は勉強だけでなく創作も得意なのだ。
「もうちょっと顔を怖くしたいな」
誠次はそう言うとぬいぐるみの目を黒で塗りつぶした。
「服も汚そう」
将と綾が白いワンピースに赤と黒で血がついているように塗った。
「おい、足の関節逆じゃねーか」
誠次が人形に足の棒をつけた綾に抗議する。膝が逆に曲がり正面の方に足の裏が向いている。
「別にいいじゃん。どうせぶら下げるだけなんだから」
「俺のこだわりが……」
綾に軽く流され誠次はぶつぶつ言いながら作業を続けた。そうして残っていた布や綿で気になるところを補修した。
「おーおーおーおー、いいねいいね」
完成した人形を見て誠次はとても満足そうだ。
真っ黒い両目に裂けた口。口は赤い糸でジグザグに縫われている。黒髪ロングに血濡れの白いワンピース。身長は150センチくらいはある。
これは十分気味の悪い人形だ。
「名前つけよーぜ」
「貞子とか?」
「それパクリじゃん。もっとかわいい名前がいい。キラキラしたの」
綾がはしゃぐ。
「うーん」
愛華は綾の右の耳にあるハート型の小さなピアスを見てピンときた。彼氏からプレゼントをされて片時も外さずつけているピアスだ。
「ハートストーン! 恋愛宝石って書いてハートストン!」
「なんだそれ、キラキラネームかよ」
「ははは、いいじゃんそれ」
将は呆れ気味だが誠次は笑ってくれた。だから名前は恋愛宝石(ハートストーン)に決まった。
「じゃあハトコ持って行くか」
「いきなり略さないでよ」
「ハートストーンだと長いじゃん」
誠次とのいつもの掛け合いが楽しい。
でも。
もうすぐそれも出来なくなる。
離れても同じようにいられるのかな? そう思うと愛華は胸がチクりと痛んだ。
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