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空き家
「ハトコはどうやってもっていくの?」
「名付け親もハトコって言ってんじゃん」
「いいじゃん、かわいいもん」
誠次とのやりとり。楽しい。
「途中で見られたら意味ないな」
一人まじめな将が教室のカーテンを外して人形を包んだ。まじめな割にやる事は大胆だ。
そうして誠次と将が人形を運び、二人の女子が後ろを歩く。夏とはいえ、そろそろ陽が傾き始めている。
「ねえ、夏休みに入る前に言わなきゃダメだよ」
男子の後ろを歩きながら綾は愛華に耳打ちする。綾には誠次への思いは伝えている。というかすでに知られていた。いつも誠次の事を目で追っているのに気づいていたって。
「うん、わかってる」
「大丈夫だって。誠次も愛華のこと好きだって」
「本当にそう思う? なんかずっと友達関係だったから……」
「そんな友達がこんなに可愛くなったんだもん、気にならないわけないって」
「えへへ」
愛華は思わず照れ笑い。
「あの人形置いたらさ、二人きりにするからそこで告りなよ。勇気だしてさ」
「う、うん。がんばる」
「よし」
綾はニコッと笑うと愛華の頭を撫でた。
学校を出て20分ほどの距離にその空き家はあった。
築40年とか50年とか経っている二階建ての木造の一軒家で、誠次達より背の高い黒い木の柵が隙間無くグルリと囲っている。両隣は空き地で比較的新しい緑色の網のフェンスで塞がれていた。
裏にはコンクリートで出来たのドブ川が流れている。木の壁や屋根瓦など、古い割に目立った破損はなく、贅沢を言わなければまだ住めそうだった。
「どうやってここに入るの?」
綾が訊いた。正面の黒い鉄の門が塞がれていて、周りは背の高さよりある木の柵で囲まれている。
「真っ正面からだよ」
そう言って誠次は鉄の門をゆっくり引くと、ギギギと音を立てながら門は開いた。
「誰からに見られたら怒られるかもしれないからな入って入って」
誠次は人形を抱えて中を進む。三人が後に続いて最後の愛華が門を閉めた。見ると鍵自体が壊れて無くなっていた。
「へえ、あんまり空き家って感じがしないね」
愛華は周りを見渡す。玄関までは3メートルほどか、薄汚れていて雑草も所々生えているが石畳はちゃんと残っている。
左右は同じように庭になっていて、こちらも雑草が生え放題になっているものの、ジャングルのようにはなっていない。踏み荒らされているのか、長年放置されているわりには雑草は伸びていなかった。
「大丈夫? 危なくない?」
初めてここに来た愛華と綾は怯えながら男達の後を歩いた。
「大丈夫だって、俺なんて小学生の頃から10回以上来てるんだぜ?」
誠次は悪ガキのような笑顔を見せる。
「でも古い家だし、色んな人が出入りしているから周りに注意しておいた方がいいよ」
将は前を向いたまま冷静に言った。玄関は細い格子状の木と厚い磨りガラスで作られた引き戸。意外にもガラスにいくつかヒビがある程度で割れたり壊れたりはしていなかった。
「ここも鍵が壊れているんだ」
何でもないように誠次は扉を引いた。ビックリするくらいすんなりと開いた。
いよいよ四人は空き家に入るのだった。
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