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誠次は一人で人形を抱えたまま何も気にした様子もなく靴のままあがる。
将は何度か廊下を踏んで大丈夫な事を確認してから女子達に頷いた。愛華はなんだか悪いことをしているようで少し躊躇しながらあがった。
「あたし初めてなんだよね」
綾は最後に入ってきて扉を閉めると、楽しそうにキョロキョロしながらついてきた。
「私もー」
愛華は若干怖いと思いつつ男子の二人に続く。中は埃っぽいが、古い空き家の割に廊下はそれほど汚れていない。それだけ人がよく入り込んでいるのだろう。
左手の廊下の先はトイレで扉が開いていた。昔ながらの和式トイレ。右手は台所らしく、木の床でペットボトルや紙くずがいくつか転がっていた。
正面に廊下を進むと左は畳の部屋。さらに奥にも畳の部屋があってふすまは壊されていたり、開け放たれていたりする。こちらはほとんどゴミがなく、靴の跡がいくつか畳の上に残っているだけだった。
廊下を進むと右に階段。一人が通れるだけの細い階段だ。
「やだ、大丈夫これ?」
階段は一歩ごとにギシギシと鳴り綾は不安そうに訊いた。
「いきなり底が抜けるとかはないと思うぞ」
本当かどうかわからないが、頭のいい将がいうと安心できる。
途中の踊り場で90度曲がって慎重に二階まで上がった。二階の廊下は二手に分かれていた。階段から真っ直ぐな廊下と右に伸びた廊下。
右側は左が濃い緑の壁で、右は子供部屋だろうか扉のついた部屋が右側に二つ並んでいる。突き当たりには窓があり陽が差し込んでいた。
正面の廊下は左は大きな木とガラスの窓と濃い緑の壁。こちらも外から陽が入って明るい。右はふすまと柱で二部屋ほど並んでいるようだ。
「さて、どこに設置しようかな」
誠次は正面側と右側の廊下を見比べる。
「こっちの部屋はどうなっているの?」
愛華がふすまを開けると中は畳の部屋で三方がふすまで、扉のある部屋がある廊下側が濃い緑の壁になっていた。
「こっちはふすまで区切られているでっかい部屋だな」
誠次が畳の部屋に入っていく。ここもゴミがいくつか散らばっているだけで、生活道具はなにもない。
「何か事件があったとかじゃなくて、普通に引っ越したんだろうな」
将が愛華の疑問に答えるように言った。畳の部屋の一番奥、階段から対角の部屋に人形を吊すことにした。
「さて、どうやって吊すか」
誠次は天井を見上げてつぶやく。古い家なので梁でもあるかと思ったが、天井は板張りで電灯の差し込み口があるだけだ。
三人の目が将に集まる。
「うん、まあ、仕方ないね」
将はため息をつくと、誠次を肩車した。天井の一部に穴を空けて、ビニール紐を通した。あとは紐を首に巻いて引っ張ると、いい感じに吊すことができた。
「なんだかちょっと可哀想だね」
愛華は口をジグザグに縫われてぶら下がる細長い人形を見てつぶやく。
「最初の発見者はビビるだろうな」
誠次は満足そう。
「すぐにネットで話題になるよね」
綾は微笑んだ。
「肝試しスポットとして人気になって、いつか都市伝説になって、それから」
メガネをクイッとあげて将はもの悲しげに微笑む。
「じゃあ帰ろうか。ふすまは閉めておこうぜ。その方がビックリするだろうから」
誠次が階段に向かい他の三人も後に続く。最後の愛華が人形を吊した部屋を出ようとした時。
「アソボウヨ」
声が聞こえた気がした。
愛華は振り返るが、そこには誰もいない。ただ夕暮れのオレンジ色を浴びた孤独な人形がそこにあるだけだった。
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