運命なのだ(弘也)

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運命なのだ(弘也)

俺は、今日告白する。 「玲奈ちゃん、俺と付き合って欲しい」 「弘也くん…。でも、私は、…」 「あいつらの事は関係ないとは言わない。あいつらの事がなければ俺達は出会わなかったから」 「それなら、…」 「でも、それは、きっかけにしかすぎないよ。俺は、君と一緒に何度か過ごすたびに君に惹かれてしまったんだ。好きになってしまった。ごめん」 「そんな、謝らないで」  彼女の目にはたくさんの涙が浮かんでいた。 「あなたが辛い思いしたのに…。ごめんなさい。それでも、私もあなたが好きです」 「玲奈ちゃん...」  俺は、彼女を強く抱き締めた。  俺と玲奈の出会いは、決していいものではなかった。むしろ最悪だった。  それは、俺の婚約者とその浮気相手との話し合いの場だったから。そして、玲奈は、その浮気相手の恋人だった。  不貞腐れた相手の男の隣で、玲奈は下を向き、テーブルの上に置かれた手は、震えていた。 「どうするつもりなんですか?」  俺は、相手の男を睨み付けた。 「どうするって言われても」 「美紀と俺は数ヶ月後には結婚する予定だったんだ」  俺の言葉に男は、視線を逸らす。俺はそんな男の様子にため息をついた。  すると、俺の婚約者である美紀が俺にしがみついた。 「弘也、誤解よ。彼は、友達の彼氏よ。何かあるわけないじゃない。私が好きなのはあなたよ」  すがりつく美紀を俺は睨んだ。 「こんな写真があるのにか」  それは、俺が探偵に調べさせた結果だった。写る二人は、どれを見ても恋人同士のようだった。中にはキスをしている二人の写真もある。 「亮…。どうして、…」  写真を見た玲奈は、涙を浮かべ、男を見た。 「もういいよ」  男は開き直ったようにつぶやいた。 「どういう事だ」 「もう認めるよ。美紀と俺は、付き合ってる」 「ちょっと何を言い出すの!」 「亮も美紀も酷いよ。どうして」  男の言葉に慌てふためく美紀に、男の彼女である玲奈は泣き出す。まさしくカオスだった。  俺が何かを言い出そうとした時だった。 「玲奈のそのウジウジしたところが鬱陶しいんだよ」  男は、自分の彼女に向かってウンザリだというようにいい放った。 「何でも言う事聞くし、都合がいいからそばに置いといたけど、お前もういらないや」 「お前!」  俺は、男の言葉に頭に血がのぼった。  玲奈は男の言葉にショックを受け、さっきよりも多くの涙を流していた。 「なあ、美紀。もうバレちゃっだし、俺達、このまま付き合おうぜ」 「あんたと付き合うわけないでしょ!私は、弘也と結婚するの」  俺は、伝票を持って立ち上がった。 「美紀、お前勘違いしているようだけど、俺、お前と結婚しないから」 「えっ…」 「お前達には慰謝料請求するから覚えとけ」 「弘也、待って」  美紀は俺の腕を掴んだが、それを振り切って店を出た。  ただ、残してきたあの男の彼女である玲奈だけが気になった。 (あの子大丈夫かな)  数日後、俺と美紀は婚約を解消した。そして、もちろん二人には慰謝料を請求した。  二人がその後どうなったか知らない。すべてが片付き少しずつ普通の生活に戻りだした頃、会社の前で声をかけられた。 「突然、すみません。以前ご迷惑をお掛けした件で謝罪させて頂きたくて参りました」  それは、あの男の彼女、いや、元彼女だった。その表情は、あの時よりやつれているように見えた。  俺達は、後日喫茶店で会う事になった。 「先日は、すみませんでした」 「いや、あなたが謝ることではないですから」 「でも、二人が出会ったのは私のせいなんです」 「どういう事ですか?」  玲奈は、美紀の働く洋服屋の常連で、美紀に服選びをアドバイスしてもらううちに仲良くなったそうだ。 「お互いの彼氏の話も良くしていたんです。それで、美紀とお茶してる時にたまたま彼氏から連絡が入って、それで彼を美紀に紹介したんです。私が紹介したりしなければ…」 「友達に彼氏を紹介するのは普通じゃないですか。それに、その先の事はあなたには関係ない。悪いのはあの二人だから、あなたが心を病む事はないですよ」 「すみません」 「だから謝らないでください」 「でも、…」 「じゃあ、たまにこうやって話し相手になってください。結婚間近に逃げられた男ってなかなか扱いずらいらしくて。休日も暇してるんです」 「やっぱり私のせいですよね。ごめんなさい」 「だから謝らないでくださいって。それによかったら本当に暇な男の気晴らし付き合ってくれますか」 「はい。私で良ければ」 「じゃあ、そういうことで」  俺達は、連絡先を交換した。  俺達は、たまの休日に喫茶店で話した。彼女、玲奈は俺の話をいつも嬉しそうに聞いてくれた。やがて、俺達の会う場所は、喫茶店からおしゃれなレストランに変わり、やがて、動物園や水族館などまるでデートのような休日を過ごすようになった。  そして、俺は、優しくておっとりとした玲奈にどんどん惹かれ、恋に落ちたのだ。  俺達の出会いは人に言えるものではないかも知れない。しかも、被害者同士が付き合うなんて。  でも、腕の中にいるいとおしい彼女への愛は揺るぎないものだ。きっと玲奈との事は、運命だったのだ。
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