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プロ編 ~デビューした日~
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「涼真、準備しろ!」
鈴木監督から声がかかった。
Jリーグの第19節、ホームでのガレン大阪戦の後半15分ごろだ。ベンチ横でアップしていた僕はドキッとし、北コーチからダッシュを数本入れるように命じられた。来るかなとは思っていたが、本当に出番が来た僕は「マジか」と呟いた。でもやるしかない。
全力でダッシュをいれ、水を飲み、自分の肩や胸を叩き気合を入れた。コーチや控えの選手に
「行ってこい!」
「やれるやれる!」
と声を掛けられ、心臓をバクバクさせながらベンチの監督のもとへ向かった。
「高橋と代えるから、長尾をセンターバックにして、涼真は右サイドバックに入れ。積極的にチャレンジしろ」
と言われた。その後、戦術の指示があったが、正直何も頭に入ってはいなかった。ただ、セットプレーの時のマークの確認だけはしっかりと頭に入れたつもりだった。鈴木監督、栗本コーチときつく握手を交わした。監督からは、
「自信を持ってプレーしてこい!」
と言われ、背中を叩かれた。
ピッチ中央の交代エリアに行く。サポーターの声援がより大きく聞こえる。アルビレオンの応援歌だ。交代エリアに立つと、より心臓の鼓動が大きくなる。僕は目を瞑り、胸に手を当てて、「ふぅー」と大きく深呼吸をした。
その瞬間、ボールがピッチから出て、スタジアムに交代のアナウンスが流れる。
「背番号3高橋章浩に代わりまして、背番号16番風見涼真が入ります!」
ホームゲームで会場がビックスワンということもあり、大歓声が響き渡る。
「お前の為に歌うのさ! さぁ見せてくれ、涼真のゴール! お前のゴールで俺たちを躍らせてくれ涼真のゴール! りょうゴール!りょうゴール! オオッオッオオオッ!」
僕の応援歌が流れる。ミッキーマウスマーチの替え歌だ。これを耳にした時、胸が熱くなり、緊張が飛んだ。試合に出る実感が完全に湧いてきた。
章浩が僕の所に来て、肩を叩き、
「頼むよ」
と一声かけてくれた。僕はそれに応え、ポンっと章浩の背中を叩いた。
そして、プロサッカー選手として初めて公式戦のピッチに入った。いつも通り右足から。僕がピッチに入る時のルーティーンである。
途中出場だったが、記念すべきデビューの時だった。ピッチの中の眩しさ、熱い空気、戦って擦れている芝生の匂い、汗の味、観客の声援……全てがピッチの外で感じるものとは別物だった。
今でも五感全てでそれらを鮮明に覚えている。
「あぁ、やっとこのピッチに立つことができた……」
ビックスワンの約4万人の大歓声を受けながら、必死にボールを追いかけた。
僕の夢が叶った瞬間だった。
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