私は月下のサンタクロース。この物語だ。

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 これは月夜に照らされ集った者たちの物語。 「おじさん、おやすみなさーい!」 「はーい、おやすみ彩ちゃん。早く寝るんだよ。じゃないとサンタさんこないからね?」 「わかったー!」    このやり取りから早6時間が経った。  時刻は午前2時。  私は福士俊太郎。彼女の叔父だ。  彼女は弟の娘の福士彩ちゃん。6歳。  なぜ叔父の私と姪の彩ちゃんが一緒にいるかって?  それは弟の職業に関係がある。  弟は凄腕の心臓外科医だ。海外からも手術の依頼がある有名人。  彼は年中手術の依頼があり、ほぼ休みなしで働いていた。  金は沢山あるし、もうぼちぼちでも食っていけるだろうが、弟は人の命を助けることから離れられない優しいやつだ。  あいつの奥さんは不慮の事故で帰らぬ人になった。  そのためまだ小さい彩ちゃんは一人で留守番をしなければならなくなる。  シッターさんのような人を雇うことも考えたが、弟の神経質な性格が影響して、信頼できる人に頼むということになった。  その結果が独身の私。  37歳、しがないライターだ。一日中家にいることができる。  子育てなどしたことのない私だが、一応頑張ってはいると思う。  そして今日、12月25日。  子供を持つ親にとって重要な日。  クリスマス。サンタクロース。プレゼント。  私はこの日の為に用意していた物を取り出した。  赤い服、赤い帽子、新品のブーツ。そして白いあごひげ。  私はそれに着替える。まさか37にもなってこんな格好をするとは思わなかった。  それもこれも彩ちゃんが学校で友達に“サンタさんは親”ということを聞いたからだ。  彩ちゃんはがっかりしていた。  しきりに“そんなことないよね?”と尋ねてきた姿には胸が締め付けられた。  恥ずかしい格好?何とでも言ってくれ。これが大人がすべきことだ。  私はあいつの兄貴として、そして彩ちゃんの叔父として、これからサンタクロースになる。  彩ちゃんは起きないかもしれない。気づかないかもしれない。  そんなことは関係ない。  子供に夢を見せるのが大人の役目。  彩ちゃんは頑なに欲しい物を書いた紙を見せてくれなかった。  だからとりあえず女の子が好きそうな人形を買ってきた。  欲しい物とは違うかもしれないが、少しは喜んではくれるだろう。  そうして私は外に出て鍵を閉め、脚立を使って二階の屋根に乗った。 「待ってろよ、彩ちゃん。サンタさんがプレゼントあげるからな!」
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