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そう言ってメニューを見せてくる。その瞬間、私は生まれて初めて湯呑を娘が出し忘れていてくれたことを感謝した。多分、いや間違いなくぶちまけていただろう。
・Aせっと 『おむらいす』『わかめの味噌汁』『おにぎり』
・Bせっと 『ハンバーグ』『あおさの味噌汁』『おにぎり』
・Cせっと 『ざるそば』『とうふの味噌汁』『おにぎり』
おおどうした蕎麦屋、関東から東北にかけて維新でも起きたか。まず蕎麦屋でABCを出すな。さと じゃないんだから。あと ”おむらいす” と "おにぎり" が同居する理由もわからん。なんでだ?、日本人米すきだろってか?
「じゃぁえ、」
「――ええッ!」
「……Cせっとで」
「、か、かしこまりました」
なるほど合点がいった。準備してないなコレ。そらそうだ。多分オムライスが何なのかすらわかってないからこその、この二天一流なのだろう。
そばを打つはずの道具には一切手を触れず、どこからともなく出てきた細い麺と、火の気もないのに突如湯気が昇りだしたかと思うと、しばらくたって料理が出てきた。
娘の方がしばらくどこかへ消えたかと思うと、やがておにぎり二つを皿の上に、米粒二つを唇の上にそれぞれ載せて戻ってきた。……もはや何も言うまい。
「いただきます」
明らかに足りない強度で "ぱきり" と音を立てた割りばしを割ると、私はそのまま湯気立ち込める蕎麦へと箸を伸ばした。
ざるそば?、こまけぇコトはいいんだよこまけぇコトはよ。情熱込めて作ってくれたんだろう?、なぁそうだろう。あぁそうだ、きっとそうさ。
ヤケクソになりながらすする。まぁなんてことはない。味は、まぁ普通だ。味噌汁も。というか正直どうでもいい。なんせ今、私は何も食べていないのだから。
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