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手からおちょこをこぼし、安らかに目を閉じて泥のように眠りにつく、やせこけた男の、いや、男の両隣。
二匹のタヌキがそっと耳元に口を寄せる。
誰にも聞こえないよう、彼以外、誰にも聞こえないように。小さな、小さな声で、大きな、大きな思いで何かを告げると、二匹は再び人間の男女の姿に己の体を戻した。
「……報われたでしょうか。」
「報われる、というと難しいね。ただ、その痛み、少しでも安らかにすることができたのであれば、それはわれらの冥利に尽きるよ」
「……連れてくるべきだったのかね」
「オイオイ、今そのねぎらいを向けたばかりで、まだ働かせようとするのかい?」
「……それもそうかね」
「さて、ではそろそろだ。私たちも行くとしよう」
「ええ、」
ひどく安らかな顔を浮かべ、もう一度その男に近づいたかと思うと、二人の体は、フッと、煙のように消えてしまった。
――山には二匹のタヌキが住む。父親と娘の化けタヌキ。
彼らはとても賢いが、人の前ではその知恵を隠す。人に弱者を騙す心がないかを確かめるように。
彼らはとても強いが、人の前ではその強さを隠す。人に利益を施す心があるかを確かめるように。
彼らはとても貴いが、人の前ではその気品を隠す。人に差別を行う心がないかを確かめるように。
彼らはとても美しいが、人の前ではその美を乱す。人に色欲を抑える心があるかを確かめるように。
すべて越えし者を、彼らは己の主とす。
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最後にあとがき書きます。
ヨロシケレバドウゾ
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