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「お、おにぃさんちょっと!」
「ハイ、なんでしょう」
今度は少し自然体でやってきた娘に、私はあくまでも騙されているとまではいかずとも、疑ることこそあれ、まぁ一応は人間だと信じているていで接する。これでもアチラは必死なのだ。それに人に化けるなんてそうそうできることじゃない。すごいじゃないか。
「っし!)
コラ、人が感心する間もなくガッツポーズをするな、隠す気あるのか。せめて見えないように……ってコラオヤジ、覗くな。微笑むな。返すな! 見えてるんだよ全部!
「おなか減っとりませんか?、おいしい蕎麦屋があるんですよ」
「ッッ。ええ、いいですよ。丁度腹ごしらえがしたかったんです」
バレバレである。これならまだニコニコ店先で看板娘やってた方がまだマシですらある。こちらもその方が入りやすいし。
「っし!」
だからするなガッツポーズを!! そして返すな! 交信を止めろ! 貴国らの動向はすべて傍受されているんだ。頼むからもうちょっと隠す努力をしてくれ。
叫びたい気持ちを必死に右ひざに殴りつけながら、私は娘のぎこちないエスコートに導かれてのれんへをくぐった。
「いらっしゃいませ!旦那!」
「……どうも」
多分違う、何となく違う。何がとはいいがたいが間違いなく何かが違う。洋画に出てくる忍者よりは近く、ただインドで食うカレーライスよりかは遠い、そんな独特の違和感と懐古心が心をくすぐる、いやもうちょっと気持ち悪い。はい回る?、そんな内装の中、うやうやしく頭を下げる亭主の男。
笑いをこらえながら、私は最小限の声量で返事をした。
「ご注文は、なんにしましょうか」
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