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すっかり空っぽになってしまった籠を見てひとり、私は笑顔を浮かべる。
あの愛くるしいタヌキの二人に、次は何をもっていってやろうか。そんなことをもう考えてしまっている。
まぁ何はともあれ、この日から、私と彼らの不思議な付き合いは始まった。
それから大体 二週間に一回、多い時には三日に一回、私は彼らの蕎麦屋を訪れた。
彼らは私を見るなり寄ってくる。なんてことはせず、あくまでも私を頑張って蕎麦屋に誘うところから取り組んだ。レベルが上がることは正直微塵もなかったが、色々工夫を凝らしてその都度頑張る二人の寸劇を見るのは楽しかった。
冬は特に大変だった。腹を空かせては大変だから、できるだけ日持ちがよく、かつカロリーの高いものをたくさん持って行った。薬やマキなんかも添えてやった。
幸い渡す食品はそこら中にあふれている。まぁ、一度寝ぼけて缶切りを知っているか確認せず缶詰を渡したときもあったが。
その時はすでに長袖がうっとうしい春であったが、目の前で何の躊躇もなく缶詰の蓋をたたき割るサマを見せられた時には、いよいよコレは人間と野生のパワーの差を身にしみて感じた。
時には一緒に鍋をつつくこともあった。何なら山に登って栗を拾ったり、魚を釣ることもあった。木を登るときは爪を上手くひっかけて。というアドバイスは聞かなかったことにした。草履と浴衣姿で枝々を飛び交う娘の姿は見なかったことにした。やはりこいつらに隠す気はないのだろうか。
ある時、ついに我慢できなくなって。酒で酔ったふりをして蕎麦の打ち方を教えた。味はひどくなったが、次の時からはちゃんと私の腹が膨れるようになった。
食料を籠にかき集め、蕎麦屋へ向かって。人並外れたタヌキに化かされるそんな日常は、終わりかけていた私の日常に、確かな彩をくれた。
そんな、どこかずっと泡沫の上で過ごしているような日々を過ごして、2年がたった。
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