バタフライエフェクト

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バタフライエフェクト

あぁ 最悪だよ… 佐藤 裕は心のなかで呟いた。 此処はハコブネ市に向かう大型のワンボックスの車中、運転をするのは教団でと呼ばれている連中… は教団の面倒事を力づくで片付ける武闘派だ。 佐藤は教団でと呼ばれている諜報担当の班長をやっているのだが、昔からが苦手だった。 いや… 鼠というより、鼠の班長の伊藤が好きではない、といった方が正確なのだろう。 伊藤の体から滲み出してくる様な暴力的な匂いと、 自己中心的で威圧的な性格が佐藤には本能的に耐えられなかった。 普段は一緒に仕事をすることは無いのだが、重要な案件に限ってバッティングさせられる時の面倒臭さは、佐藤のメンタルを激しく消耗させる。 とはいえ、今回も教祖直接の命令なので拒否権などなく、半ば諦めて仕事に向かっていた。 兎と鼠が一緒の現場はいつも荒れる… それとも荒れる現場だから一緒なのか、卵と鶏の関係と同じ位に答えは出ない。 車内は仕事前の緊張感からか皆が押し黙りBGMで流れているモーツァルトが響いている。 先ほど自衛隊に車を止められた。 新型の豚インフルエンザが出たので車両の消毒作業をしていると言っていたが、あれはきっと… 佐藤の陰鬱なオーラを感じたのだろうか、隣の席に座っていたのリンがで話しかけてくる。 諜報活動をする兎達はターゲットが離れていても何を話ているか口の動きでわかるように訓練されている。 リンは日本人ではなかったが佐藤と気が合った、というより、リンは誰とでも上手く付き合う。 彼女は元だった。 は客を取り、春を売る信者で比丘尼の稼ぎは教団の活動資金となる。 リンは比丘尼を辞めた後、教祖の勧めでに入った。 比丘尼の仕事はが取り仕切るので、リンは鼠達とも付き合いが深い。 鼠達は唇を読むことが出来ないので、口パクなら会話を聞かれる心配はない、別に聞かれた所で困りはしないのだが、伊藤に横槍を入れられるのがムカつくので佐藤にはちょうどよかった。 それに英語で会話するよりは嫌味ではないだろう。 「班長 大丈夫ですか?」 リンは、からかう様な表情でコチラを伺う。 彼女は佐藤が伊藤を苦手なのを知っていた。 「いや全然 大丈夫じゃない…」 佐藤は冗談の様に苦笑いで返すが、それはガチの本音で1ミリの嘘もそこには存在しない。 「まぁまぁ お仕事ですから」 見た目の、ほんわかした彼女のイメージから想像するのは難しいが、リンの過去は苦難の連続だった。 彼女の穏やかな顔の下に隠された本当の顔は教祖意外は誰も伺い知る事は出来ない。 鼠達に拾われて、教祖の庇護を受けていたせいもあり、リンの教団への忠誠心は高くにも厳格だった。 リンがに配属された当初、佐藤はコレがという存在かと興味深く見ていたものだった。 「今日は何をすればよいのでしょうね?」 リンは目を輝かせて佐藤に尋ねる、教祖から直接出された仕事に彼女は興奮気味だった。 彼女は、教祖に死んでくれと言われれば喜んで死ぬだろう… もちろん青山教祖は絶対にそんな事は言わないが、比丘尼達にとって教祖とはそんな存在だった。 か… いつもの答えの出ない問いがまた佐藤の頭に浮かんだ。 はたして青山教祖は神なのだろうか? 少なくとも人ではない事は確かだ、人の心を読み何百年も自分の一族に憑依しながら生きていた。 では、そういう自分は何なのか? 佐藤はその力を買われ、先代の青山教祖に教団にスカウトされて信者になった。 そして自分の分身である使って他人の生活をする事を生業にしている。 佐藤は望む物を、ほとんど何でも見る事が出来たの様に未来は見えないが、壁などは佐藤にとっては無いに等しかったし、実際に多くの人間の裏表を見てきた。 以前は覗く事に罪悪感を感じていたが、何年もそんな生活を続けているとそれが当たり前となり、今となっては、もうほとんど何も感じない。 「今回の仕事は、ハコブネ市の中をフラフラと飛び回ることだよ。」 リンは首を傾げる 「そんな事に何の意味があるんでしょうか?」 「とても重要な仕事だ… ときに、リンは未来というものが既に確定していて、誰もそこから逃げられないものだと思うかい?」 「唐突な質問ですね。 うーん… どうでしょう? もしそうだとしたら、人が行う努力も挑戦も苦悩も全て無意味という事になりますね。 もう結果が決まっているのですから…」 「では、努力や挑戦や苦悩する事さえも、何処かの何物かによって決められているとしたら?」 「班長の言い方は、まるで未来は既に決められているみたいですね。」 佐藤は小さく頷く 「ああ そうだよ。  もう未来は決まっている… 誰がソレを決めているかは、僕にはわからないけどね。 この事を信じるか信じないかはリンしだいだ。」 「生まれながらに、死ぬ事、辛い事、奪われる事が決められている人生って何なんですか… どうしてそんな不平等がこの世界に存在するをだろう。」 そう呟くと、強く唇を噛んで彼女にしては珍しく不快感を露わにする、リンはずっと多くの物を奪われ続けていた。 佐藤は続ける 「でも… 未来はまだ未確定な部分が多いんだと思う それはそうさ、未来だからね… の予言が大雑把で細部がハッキリしないのは未来は完全には確定してないから… だから予言の一部改変する事は可能だと教祖は考えている。」 リンは大きな溜息をついた。 「比丘尼達は来世をで過ごすために現世を生きています。 現世は修練の場でしかありません… 教祖様の言い付けに従って生きる毎日は充実していて、昔のように苦しみも悲しみもありません それは教祖様のお陰です。 だから教祖様がを望むのであれば私はそれに従います。」 そう言って落ち着きを取り戻したリンは、いつものリンに戻っていた。 教祖のは彼女の心に諦めという名の平穏を与える。 祈りの巫女は予言した 多くの人間が死にハコブネは崩壊する 矮小の僕らは、ひたすら祈る事しか出来ない… しかし大きな力の前では、僕達の祈りなど無いも同じだった。 僕らの、この小さな羽ばたきは、どれだけの未来を変えることができるのだろう?
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