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後ろ扉
「八小橅音市周辺の主要道路には、豚インフルエンザの防疫名目で自衛隊を展開させている。」
南 内閣危機管理官は 水上に向かってそう言った。
南の横に座っているのはノアの技術主任
の神崎一だった。
「水上さんにはまだ伝えていませんでしたが、ノアに原発を破壊する事は出来ません…
ノアのプログラムには、ロボット三原則が適用されている為、ノアが人に危害を加える事は出来ないからです。」
「では何故こんな大事になっている?」
「ノアは人に危害を加える事は出来ませんが嘘をつく事は出来る様に設計されています。
今回の件はアップデートに伴うバグだと考えられますが、ノアがどうしてこんな荒唐無稽な事を言い始めたかは、現在調査中です。」
「ならば、その事実を公表すればいい。」
そう応じた水上に
「面子だよ」
今度は南が、口を挟んだ
「政府はハイブリッド原発と超Aiの海外への輸出を目論んでいる。
そのプロモーションのためのハコブネプロジェクトだ…
もう後戻りが出来ないほどの巨額の税金が投入されていて、失敗すれば政権交代が起きても不思議ではない。」
そしてまた神崎が口を開く。
「ノアのセキュリティは極めて強固ですが、後ろ扉と呼ばれるプログラムがあり、後ろ扉からノアの内部プログラムに侵入して緊急停止させる事が可能です。
ただ緊急停止させれば、代替えシステムが入るまでハコブネの都市機能が長期間に渡って停滞してしまいます。」
「だから日本政府は超Aiに対する信用を保つ為にこの件を隠蔽する事にしたと…」
「平たく言えばそうだ…
ノアが独立を宣言すれば日本は世界の笑い物になる。
ソレは絶対に避けなければならないが、緊急停止を行って旗振り役である自分達の面子を潰されるのも嫌だ、と言うのが上からの要望だ。」
「だから水上君にはノアが独立を宣言する前にアレを説得して何も無かった事にして欲しい。
時間は限られているが、もしノアの説得に成功すれば政権への大きな貸しとなり、君の栄華栄達は思いのままだ…
亡くなられたお父様も、さぞお喜びになると思う。」
また父か…
正直ウンザリしていたが、努めてそれが顔に出ないようにする。
「わかりました 全力を尽くします。」
とは言ったものの腑に落ちない点は多い
ロボット三原則により100パーセント原発が安全なら、なぜ自衛隊を展開させたのか…
南に問うた所で本当の事など言うはずもないだろう。
もし、何らかの理由でロボット三原則が働いていないとしたなら?
原発が破壊された時の避難及び救助活動のためか…
いや
ノアは50万人の市民を人質に取っていた。
その数が40万人を下回った時点で原発を破壊するとも言っていた。
だから、それを恐れてハコブネを包囲し市民をハコブネから出さないようにする為の自衛隊派遣ではないのか。
また後ろ扉に触れた途端に原発が爆発したら元も子もない。
後ろ扉を使いたくないから説得したいのではないか?
全ては憶測でしかなく、水上に充てがわれた仕事は説得で、それ以上でもそれ以下でもない。
機械を説得する。
まるで人を相手にするかの表現に水上は戸惑う。
自分は、これから何を相手に交渉を行うのかと…
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