アキとノア

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アキとノア

今から3年前 ハコブネ内、青山メディカルの義肢装具研究室カウンセリングルーム 「義手の練習は順調かい?」 目の前の画面には美人が微笑んでいる。 しかしコレは作り物だ。 「そんな事は聞かなくてもノアならわかるよね? 24時間モニタリングしてるんだから 卵は割れるようになったよ。 それも知ってると思うけど…」 「おお〜 頑張ってるねー 普通の人はこうやって情報交換して親交を深めるんだよねー 私みたいにモニタリングして何でも知ってる人はストーカて言われちゃうんだ。 そうそう彼女… 月子ちゃんだっけ? 元気にしてる?」 ノアは、まくし立てるようにそう言った何故かハイテンションだ。 「元気ですよ。3日前にも会いましたから、それもノアは知ってるでしょ…」 「うーん そうだねー ファミレスでアキが店員の女の子を注目しすぎて、キレられた事なんか知らないよ… 映画の最中、氷入りのアイスコーヒーをガシャガシャ振って睨まれた事とかね。」 アキは苦笑いし画面の中のノアも笑う。 喋り方も表情も全く違和感が無いが、コレは合成で作られたイメージでしか無い 「見て見てコレ」 画面が引きになり、顔のアップから上半身までが映った。 今日のノアは白いブラウスとウエストがキュッとしまったスカートを着ている。 「ちょっと大きくしてみました。」 ノアはそう言うと手を自分の胸にあてアキの視線を誘導する。 胸のサイズの調整など彼女には造作もない。 「おっきいのが好きなんでしょ?」 思わず視線が釘付けになってしまったアキを見てケタケタと笑うノア 「瞳孔が大きくなっちゃってるよ 好きなものを見ると開くらしいよね。」 「プライバシーの侵害だ…」 諦めたようにアキが呟く。 「大丈夫 大丈夫 私、 機械だから もし君がちょっと変態だったとしても、その行動は私にとってはでしかないんだよ… だから気にしないでね。」 「全然フォローになってないから それに変態じゃねえし…」 「まぁまぁ… 卵も割れた事だし、次は針に糸を通してみようか?」 アキは溜息をつく。 「あぁ 面倒くさい。」 不意にいつもの口癖が口をついて出てしまった。 「卵を割れるようになるのも結構大変だったんだ…  暫く卵料理は見たくないかな。  次の課題も難易度、高いね?」 「珍しいね… 優等生のアキ君が愚痴かい、ちょっと疲れたかな?」 「元々がネガティブな人間なんです。」 「辞めてもいいんだよ? 事故にさえ遭わなければ、こんな苦労もせずに青春を謳歌していただろうに… それについては気の毒だと思っている。」 アキは無言で首を振り、ノアは微笑む 「そうか… 正直辞めると言われたらどうしようかと考えていたよ。 失った左手の代わりに、得られた物もあったと僕は思うけどね… たぶん僕は昔の君より、今の君の方が好きだと思う。」 ノアは昔の月子と同じ事を言った。 「大変だと思うけど、君にはもっと頑張って貰わないとね。 僕の作ったこの義手はね優秀なの。 計算上、使いこなせればよりも高い能力を発揮できる。 ただ、どんなにハードの義手が優秀でもソフトの使う人間が適応出来なければ何にもならない。 それを実証する為に僕は君を選んだ。 成果が出れば、君は健常者に近い生活を手に入れられる。 そしてこの機種は大量生産されるようになる。 大量生産されれば装具自体の値段も下がり多くの人がその恩恵に与れる。 青山メディカルの株価も上がり、僕の実績にもなる… いい事尽くめでしょ。 大丈夫 アキならきっとできるよ。 君は超AIの僕に選ばれたんだから。」 ノアは諭す様な口調で力説する。 機械のはずなのに本当に感情があるかの様にしかアキには見えない。 何だか胡散臭い情熱ではあるが… 主治医曰く、ノアはだそうだ、もともと医療、介護用のAIをベースにしたノアはをつく。 医療や介護の現場では、患者に事実を伝える訳にはいかない場面なども出てくるからだ… でも主治医は言っていた。 彼女の嘘はと。 ノアは急に黙りこんだ。 「ん? どうしたノア?」 「あのね… 」 ノアの目が泳ぎ、頬が赤くなった気がした。 「もしこの課題が上手くこなせたら、アキになら見せてあげてもいいよ… コレ。」 そう言うと視線を逸らし、ノアは先日より大きくなった胸に再び手を当てた。 部屋が沈黙に包まれる。 思ってもいなかったノアの発言にアキの 鼓動が大きくなった… 「おおー アキの脈拍が跳ね上がったよ まだまだ純情だねー」 そう言うとノアはニヤニヤしながら、してやったりとばかりにドヤ顔をする。 「ねぇねぇ やる気でたでしょ? まさにオッパイの神秘!! あとやっぱり乙女には不可欠よね?」 お色気キャラなら種明かしせず最後までやり通せよ… ノアの矛盾した言動にアキは思わず吹き出してしまった。 ノアの今回の仕事… アキのリハビリのやる気を最大限発揮させるシチュエーション。 それを分析した結果がお色気キャラらしい。 アキには、ノアが何処まで真実を語り、何処までが嘘をついていたのかわからない。 機械のノアには、真実も嘘も無いのだろう。 彼女はただ目的達成の為に歩み続ける。
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